業務を推進する中で、ご自身あるいは管轄している組織の目標設定についてお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本記事では、SaaSビジネス専門のコンサルティングを手掛けるTimeSkip社が、SaaS営業における具体的な目標の設定手順について、著者である中澤の実体験をもとに解説します。
また目標管理に使えるExcelテンプレートを用意しました。適宜改変してお役立てください。
目次
目標設定のフレームワーク「SMART」
「SMART」とは
目標設定に必要といわれる5つの要素の頭文字を取ったフレームワークです。目標を設定する際には、以下の5つの要素を組み込みましょう。

目標設定のOK例とNG例
例えば、新規の受注件数を増やすことが最終目標である場合には次のようになります。
OK例
- 新規受注件数 :10件(2025年3月31日まで)
- 担当企業への架電率 :90%
- 目標値は昨年度より20%の成長率だが、人員増加に伴い実現可能と判断
- 事業部の目標値(KGI)からブレイクダウンされている
NG例
- 昨年度よりたくさん受注する
- 提案を徹底する
- 担当顧客への架電率は100%とする
「たくさん」「徹底」のようなビッグワードは基準が明確になっていないため、目標としては不適切であると言えます。
また「転換率(例:架電率)100%」を目標値に掲げることも避けるべきです。万が一対応ができなかった場合に挽回のための対策を打つ打たないに関わらず、目標の達成ができないことが確定してしまうためです。
なぜ目標を設定する必要があるのか
目標が設定されていない場合、以下のような事態を招きます。そのため、実行の際にはしっかりと目標を設定したうえで進めましょう。
- 目指すべき方向がわからないため、従業員のモチベーションの低下を招いてしまう
- 「うまくいった」あるいは「うまくいかなかった」場合に、今後どの工程をどの程度改善すべきか判断ができない
KPI(KGI達成のための最重要目標指標)等の目標値を事前に設定することで、「これが実現されればKGI(最終経営指標)も達成されるはず」という仮説を立てることになります。仮説に基づいて行動することで、次にどのように改善をすれば良いか判断ができるようになります。目標値を設定せずに実行してしまった場合、実行したことに対する満足感を得ることはできますが、このまま継続すべきか、あるいは改善すべきかの判断ができなくなります。必ず、「SMART」のフレームワークに沿った目標値を設定したうえで、業務を遂行していきましょう。
目標設定をする際の7つの手順
以下の手順に従って、目標を設定してみましょう。
1.KGIを把握する
まずは、達成すべきKGI(最終目標)について、定性と定量の両面から把握しましょう。
会社あるいは上位組織で設定されている目標に対して、自身の役割や業務範囲として課せられているKGIを具体的に特定していきます。
例)
定性 :会社のミッション、ビジョン、ウェイ 等
定量 :2024年度の売上 100億円 等
※KGIとは、「Key Goal Indicator(キー・ゴール・インジケーター)」の略語で、日本語では「重要目標達成指標」と表現されることが多いです。最終目標(ゴール)を指します。
2.KGIまでのプロセスを洗い出す
次に、KGIに至るまでに必要な工程(プロセス)を洗い出しましょう。
思い付きや決め打ちで目標にしたい指標を設定するのではなく、すべての工程を網羅的に洗い出したうえで各プロセスに対して目標値を設定するため、まずは極力抜け漏れがないように全てのプロセスを洗い出しましょう。
例)新規営業におけるプロセス
リード→架電可否→架電→接触→商談設定→商談実施→有効化→見込み化→受注
3.過去のトレンドを把握する
洗い出した各プロセスの過去数値を可能な範囲で特定しましょう。
目標値を設定する際の参考にするために、SFAやCRM等の営業管理ツールから、定量データや当時の定性的な情報を収集します。前例のない取り組みに対する目標設定の際にも、類似の取り組みを参考にして情報を収集しておくと良いでしょう。
例)新規営業における受注件数
2022年度:8件
2023年度:32件(前年の300%成長※)
※2023年度は大手企業によるグループ会社の一斉受注があったために300%成長となっている。過去に類を見ない成果でありイレギュラーと考えて良さそう。 等
4.目標値を仮置きしてみる
洗い出した各プロセスの過去数値の転換率を、現時点の想定対応母数に対して掛けてみましょう。
過去のトレンドと同様の行動をした場合に生じる成果を定量的に把握してみるのです。おそらく、最終目標であるKGIとのズレが生じると思います。これは次の手順で調整していきます。
例)
2023年度 獲得リード件数に対する受注率 :10%
2024年度 受注件数目標 :10件
想定獲得リード件数 :80件
昨年度と同様の活動をした場合の受注件数 :8件
目標との差分 :△2件
5.目標値を調整する
最終目標であるKGIが達成できるように、前の手順(4.目標値を仮置きしてみる)で算出した想定数値との差分を調整していきます。
各プロセスの転換率あるいは母数は、現実的に数値の引き上げが可能なのか、あるいは再現が可能なのかという観点から以下の手順で差分を埋めていきます。現実離れしており実現可能性が低いストイックな目標を設定してしまうと従業員のモチベーション低下を招いてしまうため、実現可能性がある目標値を設定しましょう。
「調整前数値<KGI」の場合
調整前の数値がKGIより小さい場合は、差分を埋めるために現実的にどの程度の引き上げができるかを考えながら調整してみましょう。
- 調整前(母数に対して過去と同じことをした場合) :受注件数 8件
- KGI :受注件数 10件
不足している2件は、どのプロセスをどの程度改善できると達成ができるのか考える必要がありそうですね。
「調整前数値>KGI」の場合
調整前の数値がKGIより大きい場合は、現実的に考えて過去トレンド通りに再現が可能か否かを考えながら調整してみましょう。
- 調整前(母数に対して過去と同じことをした場合) :受注件数 13件
- KGI :受注件数 10件
3件上振れができる想定と出ていますが、すべてのプロセスに対して同じことが本当に再現できるのか、イレギュラーはなかったのかを考えてみましょう。
6.KPIを設定する
最終目標であるKGIの達成に向けて最も重要な指標となるKPIを特定しましょう。
※KPIとは、「Key Performance Indicator(キー・パフォーマンス・インジケーター)」の略語で、日本語では「重要業績評価指標」と表現されることが多いです。最終目標であるKGIに対して、中間目標と呼ばれることも多いです。
ここまでの手順でKGIまでの全プロセスを洗い出したうえで各プロセスの目標値が設定できたと思いますが、この各プロセスの目標値で特に注力すべき目標値をKPIと呼びます。すべての目標値に対して適切に状況を把握することは大切ですが、KPIは特にタイムリーかつ精緻に状況把握をし、改善行動をする必要があります。
例)リード数が増えたのでまずは顧客との接点を持つ必要がある状況の場合
- KPI:商談設定件数 20件
7.具体的な打ち手を考える
最後に、各プロセスの目標達成に向けて必要となる具体的な打ち手を考えたうえで、打ち手に対して優先順位を設定しましょう。
達成が困難と思われる目標値については、その原因を特定した上で解消できる打ち手を考える必要があります。打ち手は1つではなく複数個考えましょう。そして、各打ち手に対して評価軸(例:重要度 / 難易度 等)を設けたうえで、どの打ち手から実行するかを判断しましょう。
打ち手の優先順位を判断する際、「やらないことを決める」ことがとても重要です。本来は優先順位の低い打ち手を採用してしまった場合、工数をかけて計画及び実行をしても成果は最大化されません。やるべき打ち手を後回しにしないためにも、勇気をもって「やらない」判断をしましょう。
「SMART」のフレームワークで定量的に目標値を設定して終わりではなく、実行に際する定性面も考慮しながら具体的な打ち手を考え、実行していきましょう。
まとめ
目標設定は、その達成状況に応じて打ち手を変えることで業務の効率化および売上最大化を図るために必要なことです。営業における各プロセスを洗い出し、最適な目標値の設定と打ち手の実行を繰り返していくことで少しづつ状況は改善されていくはずです。
最後に、弊社で作成した目標管理シートを掲載します。ダウンロードできますので、自社のビジネスに適した項目を選び、実際に数値を当てはめて作成してみてはいかがでしょうか。
目標設定や各種コンサルティングのご相談はTimeSkip社へ
目標設定は、いざ始めてみてもどのように設定したら良いか手探りになることも考えられます。まずは、専門家の見解をふまえて実現性の高い施策にふれてみてはいかがでしょうか。研修の実施も可能ですので、素朴な疑問などございましたらお気軽にご相談ください。

著者:中澤 楓
大学卒業後、税理士法人のセールスを経験。その後(株)ラクスにて楽楽精算のフィールドセールスとして成績1位を獲得したのち、カスタマーセールスチームの新規立ち上げを担当。営業戦略、教育体制整備、目標設計など幅広い知見を活かし、TimeSkipでは、BtoB企業の営業支援のコンサルタントとして活動。