SaaSビジネスに適した営業組織を作ることは、事業全体の成長に大きな効果をもたらします。
強力な営業組織がなければ、SaaSビジネスは停滞し、士気は低下し、成長に必要な基盤は確立できません。
ところが多くのSaaS事業者は、どこから手を付ければ良いのか? 何が必要か?何人必要か?など、最適な営業組織の体制作りに悩んでいます。
ここでは、SaaS事業者が強力な営業組織を構築するための具体的な方法をご紹介します。
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SaaSとは
CD-ROMを開封し、ソフトウェアをコンピュータにインストールする時代は終わりました。
SaaSとは、オンラインで提供されるソフトウェア配信サービスです。強固なネット環境によって提供され、保護され、更新されます。
SaaSを活用することで、利用者は従来のソフトウェアよりも低いコストですぐに導入でき、簡単にアップグレードされ、よりよい機能を利用できます。
SaaSとは、「Software as a Service」の略
SaaSとは、Software as a Serviceの略です。SaaSは、ユーザーがインターネット上でクラウドベースのアプリケーションに接続し、使用できるようにするものです。
個々のコンピュータにソフトウェアをインストールするのではなく、サブスクリプションを通じてオンラインで利用されるソフトウェアです。
利用者は契約を結ぶことで、SaaS事業者が提供するソフトウェアを最小限の初期費用ですぐに利用できます。
電子メール、カレンダー、オフィスツール、Google Apps、DropBox、Canvaなどは、SaaSサービスの例です。すでに多くの人がSaaSを利用しています。
SaaSのあるべき営業組織体制
SaaSの営業組織は、なぜ他の営業組織と異なるのでしょうか。
店舗に並ぶ商品を販売する場合、物理的な商品が販売、購入されます。しかしSaaSはそのような販売方法ではありません。
SaaSは、顧客が購入する準備が整うまでにマーケティングと営業による通過ポイントが多く必要になります。
SaaS事業の売上を最大化するためには、営業組織を複数のプロセスに分けた方が効率的です。
では、SaaSのあるべき営業組織とその体制とはどのようなものでしょうか?
SaaSの営業活動で必要な4つの組織
近年、SaaSの分野では、SaaSの営業組織をマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの4つに分類し、各段階の連携に基づく売上拡大を目指す考え方が主流になっています。
ここでは、この考えを元にした、SaaSサービスを提供する企業にとって必須の営業組織について説明します。
①マーケティング
SaaSの営業組織の入り口はマーケティングです。マーケティングでは、広告宣伝などで得られたWebサイトの訪問者、オンラインセミナーの参加者、メルマガ登録者、SNSフォロワーなどの数などを数値化します。
マーケティングでは潜在顧客を惹きつけ、リードを獲得することが重要な課題となります。
リードを多く獲得できれば、次のプロセスであるインサイドセールスへのインプットを増やすことができ、より多くのリード育成に繋がります。
②インサイドセールス
インサイドセールスは、マーケティングで獲得したリードに対して、主に電話・電子メールなどの非対面方式でアプローチします。
SaaSサービスに関心が高く、成約確率の高いリードだけが、次のプロセスであるフィールドセールスに渡されます。
それ以外のリードについては、インサイドセールス部門がリードの関心度が十分に高まるまで、長い時間をかけて丁寧にアプローチしていきます。
闇雲に架電するのではなく、「サービスサイトの閲覧」や「資料URLのクリック」など顧客の検討時の行動をトリガーにアプローチする事で成果につながりやすくなります。
万が一、成約率が低いままであれば、インサイドセールスはマーケティングと相談し、質の高いリードの獲得を協議、依頼します。
インサイドセールスが目標を達成できれば、次のプロセスであるフィールドセールスが必要とする案件数を満たすことができます。
③フィールドセールス
フィールドセールスは、インサイドセールスが獲得した顧客と交渉し、クロージングする役割を担っています。
インサイドセールスが非対面型の営業であるのに対し、フィールドセールスはオンライン・ミーティングや外勤営業が主体となります。
インサイドセールスの段階でSaaSへの興味が十分に育成されたリードに対して商談するため、比較的受注しやすいのが特徴です。さらに受注率を上げるための分析が必要になる場合もあります。
フィールドセールス担当者は、日々スキルを磨き、確実に受注を獲得することが重要です。
④カスタマーサクセス
カスタマーサクセスは、契約後に顧客がどれだけSaaSサービスを利用し続けてくれるかを追求するものです。
適切な問い合わせへの対応、ソフトウェアの改良、オプション・サービスの提案などをすることで、継続的な契約や新製品の追加受注を生み出すことを目指しています。
獲得した顧客の製品やサービスの満足度を高め、継続的にご利用・維持いただくことが重要です。
カスタマーサクセスが更新率を上げない限り、各部門が常に新規顧客を獲得していかなければなりません。
売上を伸ばすという観点では、LTV(顧客生涯価値)の最大化は重要なテーマです。カスタマーサクセスは、既存客からより多くのLTVを獲得する役割を担う部門です。
各組織が担う役割・KPI
SaaSの営業組織を4つのプロセスに分解した上で、より効率的に売上を伸ばすために各プロセスの数値を把握し、可視化しましょう。
ここで指標となるのがKPI(Key Performance Indicator)です。
KPIとは「重要業績評価指標」のことで、目標がどの程度達成されているかを測るための指標です。KPIは、営業活動の状況を確認するために利用されます。
各部門のKPIを測定すれば、追うべき数値と対策が明確になります。その結果、より効率的に売上を伸ばすことが可能になるのです。
各営業部門に「母数」、「成功率」、「ゴール」を設定することで、4つのプロセスで現状の達成率や課題を明確にできます。ゴールは、次のプロセスの母数として使われます。
以下にKPIの例をご紹介します。
マーケティング:リード獲得率
- 母数:来訪者数
- 成功率:獲得率
- ゴール:見込客数
マーケティングでは、宣伝広告などで獲得した来訪者数を母数、獲得率を分子とした比率で表されます。
マーケティングのKPIは、成功率:獲得率 / 母数:来訪者数 = ゴール:見込客数で計算されます。
インサイドセールス:商談化率
- 母数:見込客数
- 成功率:商談化率
- ゴール:商談数
インサイドセールスでは、マーケティングで獲得したリードの数を母数、案件化率を分子とした比率で表されます。
インサイドセールスのKPIは、成功率:商談化率 / 母数:見込客数 = ゴール:商談数で計算されます。
フィールドセールス:受注率
- フィールドセールス(商談管理・受注)
- 母数:商談数
- 成功率:受注率
- ゴール:受注数
フィールドセールスでは、インサイドセールスで獲得した商談数を母数、受注率を分子とした比率で表されます。
フィールドセールスのKPIは、成功率:受注率 / 母数:商談数 = ゴール:受注数で計算されます。
カスタマーサクセス:契約更新率
- 母数:受注数
- 成功率:契約更新率
- ゴール:継続契約数
カスタマーサクセスでは、フィールドセールスで獲得した受注数を母数、契約更新率を分子とした比率で表されます。
カスタマーサクセスのKPIは、ゴール:継続契約数 / 成功率:契約更新率 = ゴール:継続契約数で計算されます。
※各KPIの平均や改善策についてはこちらをご確認ください。
「THE MODEL」がこの組織体制を提唱
ここまでで紹介した、SaaSの営業組織を4つのプロセスに分類し、役割を分担し、各プロセスでの数値を可視化する仕組みは、「THE MODEL」と呼ばれています。
THE MODELは、SaaS事業の売上を伸ばすのに適した営業組織として近年注目されています。
もともとは株式会社セールスフォース・ドットコムが活用しているモデルで、名称も同社が提案したものです。
2019年に福田康隆氏が執筆した書籍「THE MODEL」が出版されたことをきっかけに、日本でも注目される営業プロセスモデルとなっています。
SaaSの組織体制の効果・メリット
「THE MODEL」に基づいて、機能別に営業組織を分割することにより、組織内でのスキルや知識の伝達と共有化が容易となり、専門性を高めやすくなります。
また、専門性を活かした業務に集中することで、業務効率が向上します。
さらに、新人の教育などもしやすいという利点があります。
THE MODELの考え方に基づいて、SaaSの営業組織を4つのプロセスに分割するメリットを挙げてみましょう。
分業による効率化・スキルの育成
まず、最も大きなメリットは、組織を機能別に分けることで同じスキルを持つ人を一つの部署に集め、そこで専門的なスキルの共有や取得が容易になることです。
同じ専門スキルがあるため、そこで情報や高度な知識を共有でき、さらなるスキルアップを図ることができます。部門の機能のレベルが上がれば、その効果は組織全体に波及し、組織自体のレベルアップに貢献します。
また、部門内では自分の専門性を生かした仕事に集中できるため、効率的なスキルアップにつながるメリットもあります。
さらに、各部門で求められる業務に重複がほとんどないため、部門間で競争意識が芽生える心配がなく、人間関係が壊れる心配もありません。
営業組織を機能別に分けることで、機能ごとに専門的な人材が集まるため、機能ごとにノウハウやナレッジを蓄積できます。
組織には新入社員の教育も欠かせません。そのような場合、機能別組織では部門ごとに業務に関する知識や情報が集約されているため、効率的な人材育成が可能となります。
KPIの管理や改善がしやすい
THE MODELでは、部門ごとのKPIが明確であり、全体の営業フローにおいて各組織とKPIが繋がっています。
そのため全体のどのプロセスに問題があるのか、改善すべきポイントを発見しやすいという利点があります。
また改善策も比較的実施しやすいため、PDCAが回しやすくなるのです。
適切なKPIを設定し、KPIに基づいた計画や施策を改善することで、ビジネスのアウトプットに大きな差が生まれます。
KPIは、パフォーマンスを評価するための軸であり、道標となります。しかしKPIの選定を誤ると、目標に到達しているかどうかのプロセスを正しく評価できなくなります。
さらに、不適切なKPIに基づいた間違った事業計画を作ってしまうことにもなります。
KPIの選定を誤ると、ビジネスの成長に影響を及ぼす可能性があることを忘れてはいけません。そのため、十分な時間をかけてKPIを検討することをお勧めします。
SaaSの組織構築におけるポイント・注意点
SaaSの営業組織を4つのプロセスに分ける「THE MODEL」は、万能の営業システムに思えます。しかしこの組織体制にも、注意点はあります。
ここでは、SaaSの組織構築における重要ポイントと注意点を解説します。
組織が個別最適化されないようにする
SaaSの営業組織を4つのプロセスに分ける場合、各組織が個別最適化されないようにすることが重要です。
例えば、マーケティングのリード獲得数の目標が高すぎると、質の低いリードを獲得してしまい、インサイドセールスの営業効率が下がる危険性があります。
インサイドセールスからフィールドセールスの関係も同様です。リードが育っていない段階で無理に商談をしても、受注には繋がりません。
従って、各組織のKPIの設定を無理な水準にしないことが重要です。数と質のバランスを取ったKPIを設計しましょう。
常に分断されないように「全体最適」を重要視しましょう。
インサイドセールスを管轄する部門を検討(セールスまたはマーケティング)
マネージャーのプロダクト営業経験により、インサイドセールスを管轄する部門のデザインを検討しましょう。
通常、インサイドセールスはセールス部門に管轄されることが多いものです。
しかし、マーケティングのマネージャーにプロダクトの営業経験がある場合、マーケティング部門管轄としてインサイドセールスを設置するのもよいアイデアです。
そうすることで、営業の観点からもターゲティングやリードの育成ができます。その結果、質の良いリード獲得・育成に繋がり、「良い商談作り」につながります。
商談の質が上がることで、フィールドセールスのリソースを効率的に活用でき、受注率の向上も見込めます。
組織をまたぐ情報共有の仕組みが必要
顧客別のコミュニケーション履歴や、顧客担当者の連絡先などの情報を効率的に共有できる仕組みを取り入れましょう。
THE MODELのような組織では、マーケティングからカスタマーサクセスまで複数の担当者が対応します。情報が共有される仕組みがないと、誰が担当なのか、過去にどのような商談を進めたのかが分からなくなり、非効率です。
SFAやCRMなどのツールを導入して部門横断で使用することで、この問題を防止しましょう。
その際、受注確度や各種のKPIや、商談化・案件化などの定義を統一することが重要です。
またデータ入力を促す仕組みや、データの重要性をトップが認識しメンバーに説くこと、人事評価に組み入れるなどの工夫も必要です。
まとめ
CD-ROMによるソフトウェアの販売とは異なり、SaaS事業者には新しい営業組織が必要です。そこでTHE MODELの考え方に基づいた、SaaSの営業組織を4つのプロセスに分割する手法が注目されているのです。
SaaS組織で重要なのは営業プロセスの適切な分業と組織間の連携
営業プロセスの適切な分業と組織間の連携が、SaaS組織には不可欠です。
4つに分割した営業プロセスにKPIを導入することで、各プロセスの問題点と解決方法が明確になります。
ここで紹介した利点と注意点を考慮し、THE MODELに基づいた新しい営業組織を導入しましょう。
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