SaaSの販売モデルとしては「THEMODEL」が有名で、直販が主体となっている企業が多いです。
しかし、急速に事業を拡大している企業の多くは代理店販売を取り入れています。
例えば国内だとzoomの販売額の7割は代理店経由です。
この記事では、SaaSにおける代理店販売のメリットやデメリット、導入にあたっての注意点を解説していきます。
ぜひ自社の販路開拓の参考にお役立てください。
目次
代理店販売とは?直販との違い
SaaSは、物理的な存在を伴わないオンライン上のサービスです。利用者が商品を手に取って確認できないSaaSサービスをマーケティングする場合、一般的な商品を販売するより難易度が高まります。
そのためSaaSサービスのマーケティングでは、販売代理店と協力することで売上を加速させる営業体制が不可欠です。
ところが多くのSaaS事業者は、直販によるマーケティングに固執しています。
直販はSaaS企業で採用される一般的なマーケティング手法です。これは「THE MODEL」の型をベースとした、顧客へ直接アプローチする方法です。
「THE MODEL」型は、マーケティングが見込み顧客を獲得し、インサイドセールスが顧客の購買を育成し、フィールドセールスが顧客に直接営業して契約、カスタマーサクセスが契約後のフォローという営業体制です。
「THE MODEL」型で採用される直販は、直接顧客へ自社商材の詳しい説明ができるため、優位性を訴求しやすく、部門連係で顧客の声をサービスの向上やアプローチ方法の改善につなげやすいという特徴があります。
しかし、販売エリアが拡大するにつれ、販売拠点や人員などのコストがかかる、対応できる顧客に限界がある、といった問題点もあります。
一方、代理店販売は、顧客へ自社の製品やサービスを直接販売する方法ではなく、販売代理店などの他社を通じて販売する方法です。そのため、上記の問題を解消することができます。
SaaS業者は、販売代理店に対して、自社製品を販売してもらう支援をします。
代理店は、再販方式と紹介方式の2種類に分けられます。
代理店の種類
ここでは、代理店販売の再販方式と紹介方式、それぞれの概念と、どのように使い分ければよいかを解説します。
再販方式:販売代理店がSaaS事業者から商材を仕入れ、その商材を顧客へ販売します。顧客は販売代理店と契約をします。仕入れ価格と販売価格の差額が卸の報酬となります。営業活動は基本的に販売代理店が行いますが、SaaS事業者は営業支援を行います。
紹介方式:販売代理店がSaaS事業者に顧客を紹介する契約手法です。紹介は直接顧客に商材を販売せず、商談やクロージングはSaaS事業者が行います。
再販方式 | 紹介方式 | |
---|---|---|
代理店の役割 | SaaS事業者から商材を仕入れ顧客へ販売、クロージング | 顧客の紹介 |
販売契約 | 代理店と顧客が直接行う | 顧客とSaaS事業者が直接行う |
代理店報酬 | 仕入れ価格と販売価格の差額 | 商談成立時に紹介料 |
特徴や注意点 | 商品・サービスの詳しい知識が必要成約後の報酬額が高くなる | 商品・サービスの詳しい知識は不要成約後の報酬額が低くなる |
※SaaSプロダクト事業の戦略によって代理店との契約内容は色々あります。再販方式、紹介方式を1代理店でどちらも契約する場合もあり代理店報酬を変えないケースなど様々です。
代理店販売のメリットとデメリット
代理店販売の多くは販売のスペシャリストです。独自の販売網を持ち、商品の紹介から契約の交渉まで、さまざまな方法でSaaS事業者のマーケティング活動の支援が可能です。
SaaS事業者と販売代理店が協力することで、SaaSビジネスの成長が加速します。
ここでは、代理店販売のメリットとデメリットについて解説します。
メリット
代理店販売の大きなメリットは、拠点がない地方でも顧客獲得・サポートが可能になることです。自社で手がまわらない部分を代理店がカバーすることで販売網を拡大できます。
また、代理店が既に有している「拠点」「顧客」「営業マン」などを一気に獲得できるため、短期間での販路を拡大が可能です。
大企業や保守的な企業へのアプローチもしやすくなります。大企業は、日頃から基幹システムを構築しているSIerやITコンサルティング会社とつながりを持っています。
自ら情報をとりに行かない保守的な企業は地域のITベンダーや大手IT総合商社、士業などと相談しながらプロダクトを導入しています。
このように、大企業や保守的企業と接点のある事業者に代理店販売を委託すれば、SaaSサービスの拡大が容易になります。
コスト削減につながる点も大きなメリットです。販売エリアが拡大すると、多くの営業マンが必要になります。それに伴って採用コスト、教育費用人件費なども増大しますが販売代理店に依頼すれば、これらのコストを抑える効果が期待できます。
- 拠点がない地方でも顧客獲得・サポートが可能になる
- 代理店が既に有している「拠点」「顧客」「営業マン」などを一気に獲得できる
- 大企業や保守的な企業へのアプローチが容易になる
- コスト削減につながる
代理店販売は、SaaS事業者にとってメリットの大きい販売戦略となります。
デメリット
次に、代理店販売のデメリットを解説しましょう。
まず挙げられるデメリットは、契約ごとに収益が減ることです。一般的に、再販方式の場合、契約の20~30%、紹介方式では10%を販売代理店に支払います。その結果、直販の場合よりも手元に残る収益は減ります。
また販売代理店は多数の商品・サービスを扱っていることが多いので、自社の商品を集中して販売してくれる保証はありません。
さらに、販売代理店に依頼する場合、売上予測が立てにくく、コントロールしにくいというデメリットもあります。
販売代理店が行う販売手法は、基本的に販売代理店が自由に行います。熱心に売り込んでくれるケースもありますが、放置される可能性もあります。
- 契約ごとに収益が減る
- 自社製品を積極的に販売してくれるとは限らない
- 売上予測が立てにくく、コントロールしにくい
代理店販売を取り入れる際は、これらのデメリットを理解し、対策を立てた上で取り組んでいくことが重要です。
代理店販売の重要性
SaaSはサブスクリプションモデルでのサービス提供が前提となります。利用者は最新サービスを安価で利用できますが、SaaS事業社にとっては1契約あたりの単価が安価となるため、顧客にいかに長期利用してもらうかがSaaS事業の重要な鍵です。
そのためには、カスタマーサクセスの充実が不可欠です。
しかし、事業の立ち上げ間もない時期は、カスタマーサクセスに大幅なリソースを割り当てることが困難なこともあります。
特に地方エリアなどは導入後のフォローが困難なため、解約リスクが高くなります。
そこで、販売代理店の営業リソースを活用して目の届かない顧客へのカスタマーサクセス機能を提供する手段が有効です。
また、直販ではアプローチできる顧客層に限界が生じます。
SaaS事業者が直接アプローチできるのは、主に首都圏の顧客やアーリーアダプター層に限定される場合が多いでしょう。それ以外の企業にアプローチを広げるためには、販売代理店の協力が不可欠なのです。
代理店販売を導入すべきかどうかの判断基準
SaaS事業者のマーケティングには代理店販売が有効ですが、効果的な導入タイミングを見極めることも重要です。
たとえば、SaaS事業のスタートアップ期は、顧客の声を反映した商品の見直しや、営業ノウハウの体系化などが必要です。この時期には、顧客とコミュニケーションがとれる直販が適しています。
また、代理店販売の体制を構築するには2、3年かかるため、直販でスタートし、インバウンドで大手代理店から問い合わせが来る頃に代理店販売を始めるのがベストタイミングです。
代理店販売を成功させるには、代理店にSaaSサービスの特徴や機能を理解してもらう必要があります。
しかし、SasSの機能が複雑であったり、販売代理店が機能を十分に説明できない場合などは、直販の方が適しています。代理店がSaaSの利点と機能を理解し、販売しやすいかという視点で考えましょう。
代理店販売を成功させるための注意点
では、実際に代理店販売を始める際に注意すべき点はどんなことでしょうか。
販売代理店は複数商品を取り扱っているケースが多いため、代理店にとって自社のSaaSサービスが売りやすく、売ることでメリットを得られる協業体制とすることが大切です。
代理店販売を成功させるためには、以下のことに注意して設計しましょう。
- 代理店にとってのWINを考える
- 代理店のフェーズに合わせた契約
- 代理店の報酬体系の検討
- 代理店の育成と情報提供の体制づくり
- 代理店との関係構築
それぞれについて、詳しく解説していきます。
代理店にとってのWINを考える
代理店に自社の製品を率先して紹介してもらうためには、その理由作りが必須であり、これは、販売代理店を成功させるための最重要ポイントです。以下の点について確認しましょう。
①代理店の事業にシナジーがある。
自社が経理系のシステムを販売していれば、会計システムベンダーとは相互に機能補完ができます。
お互いのソリューションを組み合わせる事で、新たな価値を生み出す効果が期待できます。
②儲けやすさ
自社システムの導入支援やSIによって代理店に儲けていただく仕組みも必要です。
この場合、月額の数十%を2年間キャッシュバックするなど、手数料率を高めに設定するとより効果的です。
③売りやすさ
自社と代理店との顧客ターゲットが同じであれば、相乗効果が生まれやすくなります。
両者が協力してコラボウェビナーを開催することも、効果的なマーケティング手法の1つです。
他社サービスとの差別化を明確にすることも重要です。他社サービスに対しての優位性が分かりづらければ、販売代理店としても扱いにくい商材となります。
代理店のフェーズに合わせた契約
販売代理店がSaaSのサービス内容を正確に理解しているかどうかは、販売代理店による営業体制づくりに重要です。
リード獲得からカスタマーサクセスまで一貫して行ってもらう体制が理想ですが、契約後すぐの販売代理店には荷が重いでしょう。
そのため、販売代理店のフェーズに合わせて紹介方式から再販方式へと移行するようにします。
SaaSサービスへの理解を少しずつ深めてもらいながら、次のステップへ進むのが有効です。
代理店の報酬体系の検討
いざ販売代理店と契約しても、継続して販売してくれなければ意味がありません。
そこで長く代理店を担ってもらうため、代理店にとってメリットとなる仕組みを作りましょう。
販売代理店側へ売り切りに対する手数料のモデルの場合、解約率は高くなりがちです。長期的にお互いの売上が伸びるような体制の構築が重要です。
また、あらかじめ販売手数料も予算化し、事業計画に入れておくとよいでしょう。
代理店の育成と情報提供の体制づくり
代理店が自社の商品やサービスを提案しやすいよう、マーケットにおける自社のポジション、特徴などを伝えるようにします。
競合比較表や自社製品のポジションニングマップの提供は代理店にとって有益ですので、積極的に情報を公開しましょう。
定期的な育成体制を整えることも重要です。研修トレーニング、勉強会、販促資料の提供などを行いましょう。
代理店のフェーズや稼働率、案件成約率などに合わせて育成内容や頻度を変えることで、より効果的に売上拡大できます。
代理店との関係構築
これらの仕組みは、一度決めたら終わりでありません。定期的に代理店にインタビューをかけて、どうしたらベストな関係を築けるかディスカッションを重ねましょう。場合によっては、自社の体制変更を検討します。
代理店の社内で第一想起されるポジションをとれるように、代理店の意見を反映しながら柔軟に対応していきましょう。さらに関係を深めるため、資本提携を結ぶという手段もあります。
まとめ
SaaS事業を成功させるために、販売代理店は重要なマーケティング手法です。自社の状況や商材に合わせて取り入れていきましょう。
スタートアップ期であれば、まず自社で販売してサービスを確立したり、ノウハウを得ることに注力しましょう。この時期は、SaaS事業者としての基本的な経営体制を構築することが重要です。それと同時に、将来的な代理店販売を見据えて、販売の情報、セールスの教育体制などを整えます。
インバウンドで大手代理店の問合せが増える頃には、紹介から始め、段階的に代理店販売の導入を進めていくとよいでしょう。代理店と一緒にSaaS事業を育て、代理店の成功のために最善を尽くしていくことが重要です。
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SaaSの事業拡大に代理店販売は不可欠となってきています。
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