展示会は、自社の製品やサービスをアピールし、新たなリード(見込み客)を獲得できる貴重な機会です。しかし、出展しても多額のコストの割に成果が出せない企業も少なくありません。展示会で成果を出すためには、効果的な準備と運営、リードへのフォローが重要です。
今回は、TimeSkip(タイムスキップ)で活躍中の展示会支援のプロである稲田美紀さんに、展示会で成果を出すためのノウハウを伺いました。展示会に欠かせない具体的な準備と運営、営業のポイントを詳しく解説します。
展示会出展を検討している方や改善策を模索中の方は、ぜひ参考にしてください。
株式会社TimeSkip
Consultant
稲田 美紀さん
効果的な展示会支援サービスを提供しています。お気軽にご相談ください。
目次
展示会営業で成果を出せない企業の特徴と原因
—まずは、稲田さんのご経歴と現在のお仕事を簡単にお願いします。
私は大学卒業後、株式会社サティス製薬でコーポレートPRを4年経験しました。その後、株式会社ラクスに転職して、経費精算システムなどのマーケティングやPRを担当し、展示会やイベントマーケティングの経験を積みました。
現在は法人向けにマーケティング支援とアパレルEC事業(ファッションブランド「calm160」)を行っています。また、山口県の周南市にコワーキングスペース「Aratana」も開業しました。
TimeSkipには2023年にジョインしこれまでの知見を活かして、リード獲得につながる展示会出展の支援や各種マーケティング支援などを行っています。
—展示会で成果が出ない企業に見られるよくある特徴と原因は何でしょうか。
展示会で顧客獲得につながらない企業の特徴には、次の2つが挙げられます。
- 出展自体が目的になっている
- 出展後に効果を検証せず、同じ方法で出展している
出展自体が目的になっている
展示会で思ったように成果が出せない企業にありがちなのが「展示会に出展すること自体が目的」になっていることです。とくに初出展の企業や具体的な目的を定めずに出展した企業に多く、当日の雰囲気に満足して終わるケースがあります。
–なぜ、出展すること自体が目的になってしまう傾向にあるのでしょうか。
展示会の出展には多額のコストや人員が必要なため、会社の経営陣から現場のスタッフまで総動員で準備・運営する企業も多いです。その過程でいつのまにか「出展することが目的」になってしまい、「出展できればOK」という考えになりがちなのです。
また展示会は、お祭りのような特別な雰囲気や直接顧客と話す機会もあり、達成感が得られて「なんとなく、よかった」と終わってしまいがちです。
しかし、具体的なゴールや数値目標がないままでは、展示会後に費用対効果を確認できません。結果的に多額のコストをかけたにもかかわらず、新規の顧客獲得につながらなかったり、次回の改善点が見つけられなかったりして終わるケースがあります。
出展後に効果を検証せず、次回も同じ方法で出展してしまう
もう1つ失敗しがちなケースは、出展後に効果の検証や改善をせず、前回と同じ方法をくり返してしまうことです。
原因としては、展示会準備となるとタスクが多くなり忙しく、次の展示会の準備に追われるため、振り返りの時間が取れないという理由が多いですね。出展の申し込みやブースの確保は1年前から行われているケースが多く、翌年の出展準備と同時進行で行うことが多いのです。
もちろん、施策として有効であれば次回も同じ方法で出展するのもよいと思います。しかし、多くは出展後の効果検証ができておらず、良くも悪くも前回の踏襲となってしまい、受注や商談などの成果につながらないのです。
展示会営業の成功のカギは「目的の明確化とKPIの設定」と「数字の振り返り」
—展示会を成功させるために欠かせない重要なポイントを教えてください。
「ゴールの明確化」と「KPI設定」、そして「出展後の数字の振り返り」が展示会の成功に欠かせない重要なポイントですね。
ゴールの明確化とKPI設定は重要
展示会で成果を出すためには、まず出展のゴールを明確にすることが重要です。展示会の初出展だと、何が正解かがわからないと思いますが、ゴールとKPIを決めなければ施策の良し悪しがわからず、費用対効果の測定や改善ができないからです。
まずは、「サービスの新規契約件数」など、展示会出展のゴールを設定します。そして、そのゴール達成のためのサブゴールとなるKPIも企画段階で設定します。
展示会出展のKPIと振り返りのポイント
—展示会で設定する具体的なKPIの例を教えてください。
企業や提供するサービスの特徴によりますが、押さえておきたい数値・KPIには以下があります
▼展示会施策の数値・KPIの例
- 来場者数(展示会全体の数)
- 名刺獲得数または名刺スキャン数
- デモンストレーションを聞いた人の数(デモ数)
- 有効リード数
- アポイント獲得数
KPIを設定する際は、自社や提供サービスの特徴をふまえて設定することが重要です。たとえば、数週間で受注できるサービスもあれば、数年かけて受注に至るサービスもあるので、後者の場合は短期間での「受注数」をKGIとして施策の振り返りを行うとミスリードになってしまいます。その場合は、「高確度の案件数」や「商談化数」など受注から逆算した適切なKPIを設定します。
とはいえ、展示会当日の現場でのKPIとしては「名刺獲得数」や「有効リード数」が指標になるため、提供サービスのターゲットとなり得るお客様がどのような企業、部署、役職の方なのか、などの属性情報は重要です。BtoBサービスの場合、サービス導入時に関わる人が多いため決裁権限のある方はもちろん、担当者の方も含め、「会社数」を把握しておくことも、費用対効果の測定や改善につながります。
このように、数字の振り返りをしている企業は失敗しづらいですね。
–次回の展示会出展を決める具体的な指標や基準は何でしょうか?
ROI(投資対効果)が合えば、次回も展示会へ出展するのがいいと判断します。
たとえば、1件の受注を獲得するために100万円までかけられるサービスがあり、展示会全体の出展費用が500万円だったとしましょう。その展示会で受注が5件出たら、ROIは合っていると言えるので、次回も出展してよいと考えます。
—2回目以降の展示会出展の場合、振り返りのコツなどはありますか?
2回目以降の展示会出展では、獲得したリードと自社の保有顧客リストとの「重複率」をチェックすることが重要です。
継続して展示会に出展している企業で、ユーザー数が増えていくと、展示会に来場される方の中には、既にサービス導入済みの方が多くなります。展示会で来場者がいても新規の顧客が増えない原因は「重複率が高かったから」がよくあるのです。
そのようなケースで新規リードの獲得数をゴールにしている場合、コストをかけずに省力化して出展するのも一つの方法ですね。大きなブースから小さなブースにしたり、装飾を簡素化したりするなどです。または、展示会の施策を「新規リード獲得」と「ユーザー向けのエンゲージメント向上」の両方を目的にするなど、2回目以降の出展ではゴールに合わせて、施策やKPIを切り替えることも必要です。
適切なKPIの設定で成功した展示会事例
–稲田さんが展示会を支援した中で、適切なKPIの設定により成功した事例を教えてください
私が展示会を支援したある企業さまは、マーケティング部門主導で何度も展示会に出展していましたが、協力してもらう他部門のメンバーへ、出展の目的やゴールがうまく共有できておらず、まさに展示会に出展することがゴールになっていました。
そこで展示会の目的を社内で明確にし、その企業さまの営業メンバーにも共有・巻き込んでいくことから始めました。事前準備段階から営業メンバー向けの説明会を実施し、KPIや実施施策について共有したのです。また、展示会当日のKPIは「アポイント数」に設定し、営業メンバー全員にそのKPIを意識していただき、来場者とのコミュニケーションを図りました。
その結果、アポイント数5件の目標に対し、48件獲得するという劇的な成果を生み出すことにつながりました。
–なぜ、そのような成果につながったのだと思いますか?
やはり、展示会のゴールや目標、KPIを社内で共有し、そのKPI達成に向けて全社を巻き込んで取り組むことが、成果につながったと言えます。また、メンバー全員を巻き込むコミュニケーションも重要です。
私の場合、展示会支援に関する各部署の一連の動きを理解していたので、重要な関係者に漏れなく情報共有をしたり、社内稟議をスムーズに通すために必要な数値の共有などをしていたりしたのも要因だったと思います。やるべきタスクを具体化して、担当者が一目で把握できるスケジュール表や展示会当日の進行表、繁忙タイムを考慮した展示会の休憩のシフト表なども作成しました。
もし展示会支援会社に依頼する場合は、こうした細かな社内の動きや全体の流れを理解している会社を選ぶことが、成果を出すために重要だと考えます。
任せて安心なブース装飾会社の選び方のコツ
—ブース装飾を選定する際のコンペでは、どのような点をチェックすべきでしょうか?
展示会のブースを設営するブース装飾会社も成果を出すために重要です。選定のコンペでは、以下をチェックするとよいです。
- 自社のゴールとKPIを理解した提案になっているか
- 複数人のチームで支援してくれるか
- 同業他社の実績があるか
提案内容については、「展示会のゴールやKPIをふまえた提案になっているか?」を確認します。たとえば、新規リード獲得がゴールであれば、それを達成するためのブースデザインや動線設計などが提案されているかチェックするとよいですね。
展示会のゴールやKPIを理解していない装飾会社だと、的外れな提案をしてくる可能性があります。たとえば、受注の獲得が展示会施策のゴールで、当日のKPIとしてはアポ獲得数や有効リードの獲得なのに、見栄えの良さを重視したデザインの提案だったり、ブースへの集客のための配置になっていなかったりなど、出展企業のニーズを理解していない提案がくるケースがあるのです。
また、窓口となるメインの営業担当者だけでなく、複数人のチームで支援してくれる装飾会社だと急なトラブルや変更に柔軟に対応できるため安心ですね。
さらに、同業他社の展示会ブースを手掛けた経験があるかどうかも確認しましょう。経験豊富な装飾会社であれば、サービスの理解度が高い傾向にあるため、自社のゴールに沿った提案やスムーズな進行が期待できます。
コンペ時にはこうした自社の選定基準を事前に伝えると、コンペ時によい提案が出やすいのでお互いよいと思います。
最適なブース装飾会社を見極めるためにも、自社の展示会のゴールとKPIの設定が欠かせないのです。
展示会当日のブース運営・営業のポイント
—成果につながる、展示会ブース運営のポイントは何でしょうか?
展示会当日のブース運営では、次の3つを意識して取り組むのがポイントです。
- リード(見込み顧客)を見極める
- 効果的にデモンストレーションを進める
- ユーザーのエンゲージメントを向上させる
リード(見込み顧客)を見極める
—展示会でブースに来場した方の中から、対応すべきリード(見込み顧客)を見極めるにはどうすればよいでしょうか?
限られた時間で成果を出すには、リードの見極めが重要です。
具体的には、名刺交換の際に簡単にヒアリングを行い、既に自社のサービスを利用中の方なのか、どういった課題を抱えているのかを把握します。自社のターゲットに合致するかどうか、サービスの検討度が高い方なのかを見極めるのです。
また、ほとんどの展示会では、来場者は自分の会社名や部署分類などが記載された来場者バッジを首から下げています。このバッジも見極めの手段の一つにするといいですね。
効果的にデモンストレーションを行う
—ブースでのデモンストレーションを効果的に行うコツは?
展示会でデモンストレーションを行う際は、来場された方の課題感や、業務範囲などに合わせて説明内容を変えることが重要です。
すでに課題を感じられていたり、自社サービスの対象となる業務に就かれている方については、業務内容をヒアリングしながらお客様の課題に合わせた自社サービスの活用方法などをご説明します。
一方、課題感がない方や、まったく対象の業務担当者でない方については長々とご説明したとしても逆にご迷惑になる可能性もあるため、手短に説明し、配布資料など社内の担当部署の方に渡していただくなど、依頼するとよいでしょう。
展示するサービスにもよりますが、BtoBサービスの場合その場ですぐ受注となることは少ないですし、何より展示会会場で詳細な説明は難しいため、展示会当日はアポイントの取得や、資料送付の許可取得などを目指し、別途お打ち合わせの機会をいただくのがよいでしょう。
ユーザーのエンゲージメントを向上させる
—では、既存ユーザーが多く来場する企業はどのように対応するのがよいでしょうか?
同じ展示会で何度も出展を続けてきた結果、既存ユーザー率が高くなってきた場合、ユーザーのエンゲージメントを上げる工夫をするのも有効です。
たとえば、既にサービスを利用中の方には、ユーザー向けのコンテンツの提供やユーザー限定のノベルティをお渡しするのもいいですね。また、ユーザー専用の特別席を設けて、そこでサービスの使い方など相談できる場を提供するのもよいでしょう。
このような施策は新規顧客の獲得とは異なるゴールになりますが、継続的な展示会出展を行う場合は検討すべきです。とくにSaaSサービスの場合は、ユーザーに使い続けてもらい、LTV(顧客生涯価値)を高めることが大事です。
展示会のゴールとして基本的には「新規の受注獲得」とするのがよいと思います。ROIも「新規」をベースに考えるのがよいと思いますが、直接ユーザーと話ができる良い機会でもあるので、副次的な効果として、「ユーザーエンゲージメント向上」もあることを考慮した目標設計をされると展示会施策をフル活用できるのではないでしょうか。
展示会後のフォローで受注を獲得するコツ
—展示会後、受注数を増やすために何が重要ですか?
展示会後のフォローが最も重要だと考えています。最終的な目標である受注獲得には、展示会後のフォローが欠かせないからです。
顧客フォローが重要な理由
—展示会後のフォローが最も重要な理由を聞かせてください。
展示会では、名刺交換やヒアリングをして満足してしまい、その後のフォローが十分にできずに受注へつながらないケースが多いのです。せっかく商談につながる機会があったのに、展示会の来場だけで終わってしまうのは、非常にもったいない。
展示会の成果を最大化するためには、展示会後のフォローにこそ注力すべきです。
顧客フォローの具体的な手段とポイント
—展示会後のフォローでは、どのような方法が効果的でしょうか?
展示会後のフォローでは、すぐにメールや電話でアプローチすることが重要です。メールに関しては、展示会当日か遅くとも翌日には、来場のお礼メールを送るようにしましょう。メールに加えて、とくにサービスの検討度が高い方には、電話で来場のお礼を伝えて、アポイントを打診するのがおすすめです。展示会で話した内容を振り返りながら、抱えている課題を伺い、アポイントを取ります。
効果的なフォローのために、あらかじめヒアリングしたいことをアンケートの項目に入れておき、特定の項目にチェックや回答がある場合にアプローチを取ると効率的です。
–アプローチのポイントやコツがあれば教えてください。
展示会の来場者は、自社以外のブースにも多く回っているはずなので、どのブースの企業か覚えていないことが考えられます。そのため、メールにはブースの画像を添付して送信したり、ヒアリングした内容をメール文に含めて状況を伺う文面にしたりします。
ヒアリング情報を含めることで「覚えてくれていたのだな」とプラスの印象につながり、アポイントが獲得しやすくなるのです。メールには「資料ダウンロード」など、アクションを促す文言の記載も効果的です。
MA(マーケティングオートメーション)ツールを使えば、メールの開封やクリックを把握できるので、クリックされた方には電話で素早くアプローチするなどの施策ができます。
つまり、展示会後のフォローは「スピード感」と「個別の対応」が成果につなげるために重要と言えます。
オンラインでは出会えない人と直接接点を持てるのが展示会の魅力
では、最後に稲田さんより展示会の出展を検討する方や、改善策を検討する方にメッセージをお願いします。
展示会は適切なオペレーションを構築すれば、オンラインでは出会えない人と直接接点を持てるメリットがあり、非常に効率のよいマーケティング施策だと思います。
初めての出展の場合、まずは小規模なブースで出展し、得られた知見をもとに次回の出展では規模を大きくしていくのがおすすめです。一方、継続して出展している企業は、毎回明確なゴールとKPIを設定し、展示会終了後は、確実にフォローをすることが重要です。
受注までに1年〜3年経過することも多いため、長期的な視点で取り組みましょう。たとえば、ツールを用いて獲得したリードに対して、メールマガジンを送信する仕組みを構築するなどが効果的です。
展示会は新たなリード獲得につながる貴重な機会ですので、ぜひ有効活用してください。
本記事のまとめ
- 展示会で成果を出すには、明確なゴールとKPIの設定、数字の振り返りが重要
- 展示会のKPIは、自社や提供サービスの特徴に合わせて設定する
- ブース装飾会社は、自社のゴールとKPIを理解し、かつ実績のある会社を選ぶ
- 展示会当日はリードの見極めと効果的なデモ、ユーザーエンゲージメントの向上が大切
- 展示会後のフォローは、スピード感と個別対応が成果につなげるカギ
(取材・編集/ 上野さおり 撮影/Sachi Okada)