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カスタマーセールスとは?組織立ち上げの方法と営業のコツ・注意点【プロが解説】

著者名 TimeSkip

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SaaS企業において、既存顧客からの売上拡大は重要な課題です。しかし、既存顧客への営業活動が体系化されておらず、十分な成果を上げられずに悩む企業も多いでしょう。

そこで注目されているのが「カスタマーセールス」です。カスタマーセールスとは、既存顧客に対する営業などを通じて、売上拡大を目指すアプローチです。

今回は、TimeSkip(タイムスキップ)で活躍し、株式会社ラクスにてカスタマーセールス組織を立ち上げ、成功に導いた中澤さんに、具体的な取り組みやノウハウを伺いました。

カスタマーセールスの導入を検討中の方や、既存顧客からの売上拡大にお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。

株式会社TimeSkip
Consultant

中澤 楓さん

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カスタマーセールスとは?カスタマーサクセスとの違い

ー中澤さまのご経歴と現在のお仕事を簡単にお願いします。

私は大学で会計を学び、新卒で税理士法人に入社しました。その後、2016年に株式会社ラクスに入社し、経費精算システムのフィールドセールスにてリーダーを務めた後、ゼロからカスタマーセールス部門の立ち上げを担当しました。

株式会社ラクスでの7年間の経験を活かし、現在はTimeSkipにて、SaaS企業のカスタマーセールスに関するコンサルティング支援を行っています。

ーそもそも、カスタマーセールスとは何でしょうか?

カスタマーセールスとは「既存顧客に対する営業活動」のことを指します。役割としては3つあり、アップセル(ランクアップしたサービスやプランへ乗り換え提案)と、クロスセル(関連商品の提案)、そして紹介による新規の顧客獲得です。

新規顧客の開拓をメインに担当するフィールドセールス(FS)や、導入後の運用定着の支援をメインに担当するカスタマーサクセス(CS)とは異なります。カスタマーセールスは、既存顧客との関係性を活かしながら、新たに売上を生み出すという役割です。

ーカスタマーサクセスとの違いを詳しく教えてください。

カスタマーサクセスとカスタマーセールスは、以下の通り最終的なゴールである「KGI(重要目標指標)」に違いがあります。

カスタマーサクセス:既存顧客の成功がKGI
カスタマーセールス:既存顧客に営業し、売上を伸ばすことがKGI

カスタマーサクセスは、顧客がサービスを導入したことで改善効果や成果が出て、満足していただける状態をKGIに置いています。

一方でカスタマーセールスは、既存顧客に対する営業活動に特化し、アップセルや紹介など、売上アップがKGIです。フィールドセールスやカスタマーサクセスが対応できていない営業活動をメインに担当します。

つまり、カスタマーサクセスの後に、カスタマーセールスの工程があるイメージです。

ただし、現状を見ると企業やサービスの特徴によっては役割や定義は異なり、カスタマーセールスの営業の役割も含めて広義の意味で「カスタマーサクセス」と呼んでいるケースもあります。

これから私がお伝えするカスタマーセールスは、上記の役割のイメージでお話しします。

SaaS企業における営業体制の課題

ーSaaS企業において、フィールドセールスやカスタマーサクセスなど既存の営業体制で起こりがちな問題や課題は何なのでしょうか?

SaaS企業の営業体制においては「既存顧客から売上を伸ばす仕組みが十分に構築されていないこと」がありがちな課題として挙げられます。

既存顧客への営業は片手間、受動的な営業になってしまっている

一般的なSaaS企業において、フィールドセールスは「新規顧客の獲得」をKGIとし、カスタマーサクセスは「顧客の運用定着」や「解約率の改善」をKGIとしています。既存顧客に対する営業で売上向上を指標にしたKGIを置いている組織は、まだ少ないと思います。

そのため、サービスの運用定着後の既存顧客に対する営業活動は、片手間の業務になってしまいがちなのです。たとえば、オンボーディングで運用が軌道に乗った顧客から「オプション追加について聞きたいことがあるのですが」とご相談を頂いてから動くといった対応が見られます。

しかし、自分の担当顧客からの要望に対して行う「受動的な営業」なので、非常にもったいない。売上アップの大きな機会損失が生じていると言えます。

カスタマーセールスの可能性

ーカスタマーセールスの必要性を感じた背景を教えてください。

カスタマーセールスを立ち上げる前、新規受注を増やす必要がありました。そこで、リード(見込み客)を媒体別に分析したところ、特に紹介によるリードの件数が増えており、かつ受注率も非常に高かったのです。

さらに、紹介リードのうち「誰からの紹介か?」を調べるため、当時の既存顧客約200社の紹介元をすべて洗い出しました。すると、「ユーザーのグループ会社からの紹介」が大半を占めていたのです。このとき「グループ会社を持つ企業に特化して営業すれば、売上を大きく拡大できるのでは?」と考えました。また、紹介リードは広告宣伝費がかからないというコスト面でのメリットがありました。

リードの増加と受注数、受注率が高いといった複数の指標があり、効果が見込めたのです。

こうした背景から、紹介リードを能動的に増やして、特にグループ会社への営業を行う専任のカスタマーセールスチームを立ち上げることで、売上拡大を目指すことにしました。

ーカスタマーセールスチームの立ち上げ時の様子とメンバーについて教えてください。

当時は、既存顧客に対する営業チームがありませんでした。そのため、カスタマーセールスチームの立ち上げは完全に手探り状態からのスタートでした。2019年4月に、私ともう1人の営業メンバーの2人だけで、この部門を立ち上げました。正直、自分で言うのもなんですが、私たちは営業のトップセーラーでした。

ーなぜトップセーラーで立ち上げたのでしょうか?

カスタマーセールスの立ち上げにあたり、私たちが追う指標は「受注」でしたが、立ち上げ初期は手探りで進める必要があり、営業スキルの育成に時間を割く余裕がありませんでした。そのため、すでに高い営業力を持つ私たちが抜擢されたのです。

カスタマーセールスについて相談してみる

カスタマーセールス組織0→1の立ち上げで実践したこと

ーカスタマーセールスチームをゼロから立ち上げた際、具体的に取り組んだ内容を教えてください。

カスタマーセールスの立ち上げ時、以下の取り組みを行いました。

  • カスタマーサクセスとの役割分担と調整
  • 顧客情報を管理する専用データベースの作成
  • 目標指標(KGI・KPI)の設定
  • 施策の実行と改善

カスタマーサクセスとの役割分担を調整

カスタマーセールスを立ち上げ後、最初に問題となったのはカスタマーサクセスとの役割分担と調整でした。当時、カスタマーサクセスチームは主にオンボーディングを担当しており、顧客の運用定着をサポートすることが役割でした。しかし、その運用定着の段階でカスタマーサクセスが「営業をかけてもよいのか?」という点で社内調整が必要になったのです。

そのため、カスタマーサクセスを巻き込んで「どの条件顧客に対してカスタマーセールスが営業アプローチしてもよいか?」を明確にしました。

幸いなことに、オンボーディング完了後の既存顧客に対するフォローは注力活動ではなかったため、役割調整は比較的スムーズに進みました。具体的には、顧客が「オンボーディング完了」のフラグが立った段階でカスタマーセールスがアプローチするという形に調整したのです。

また、カスタマーセールスにて施策を行うときは許可を取り、カスタマーサクセスのKGI達成の阻害にならないように注意を払っていました。カスタマーサクセス部門が存在する企業の場合は、このような役割調整が必要になるかもしれません。

顧客情報を管理する専用データベースを作成

カスタマーセールスチームを立ち上げた際、専用の顧客データベースがなかったため、ゼロから作成する必要がありました。当初はExcelで暫定的なリストを用意しましたが、1か月で挫折。早急にチーム専用のデータベースとメニューを、ノンプログラミングで操作できるデータベースツールを用いて構築しました。

カスタマーセールスの顧客データベースでは、営業チームやカスタマーサクセスチームが使用している顧客管理ツールとは異なり、カスタマーセールス独自の指標を管理する必要がありました。その中で、ターゲットの属性を分けて優先順位付け、折衝履歴を管理したのです。

ーカスタマーセールス用の顧客データベースには、どのような項目を入れたのですか。

カスタマーセールス用の顧客データベースには、「グループ会社数」や「親会社・子会社区分」など、グループ会社の営業活動に特化した項目を設定しました。その中で、特に重要な項目は「過去の紹介の有無」です。この情報さえおさえておけば、営業活動の最低限の的は外しません。

ー所属しているグループ会社の情報はどのように調査したのでしょうか。

グループ会社の情報は、帝国データバンクからデータを収集し、自社の顧客情報と照合してリストアップしました。親会社の社名を調べ、その子会社が自社のインサイドセールス(IS)のコールリストに含まれていないかを確認し、他部署の営業とバッティングしないように調整していました。

目標指標(KGI・KPI)の設定

ーカスタマーセールスを立ち上げて設定した目標指数(KGI・KPI)を教えてください。

カスタマーセールス立ち上げ時には、以下のKGIとKPIを設定しました。

▼KGI(重要目標達成指標)

  • 紹介先の受注件数
  • 受注金額(MRR:月次経常収益)

▼KPI(重要業績評価指標)

  • 既存顧客へのアポの件数
  • 紹介先の商談化件数

特に重視していたのは「紹介先の商談化件数(紹介先企業が前向きに検討を始めた件数)」です。この数字が落ち込むと、半年先の受注に影響するため、常にチェックしていました。紹介施策って、稼働が少なく見られがちなのですが、実際は成果につながるまで約半年〜1年程度かかることも多くあります。

また、紹介元と紹介先の両方に指標を設けました。カスタマーセールスでは、既存顧客1社から複数の紹介先が生まれ「1対多の関係」が成り立つため、「1社あたりの紹介先発生率」を見ることで、アプローチ方法の改善につなげていたのです。

つまり、「紹介元にアポを取っているのか?」「紹介先を生み出しているのか?」の二軸を見ていました。

ー指標の確認や分析のコツを詳しく教えてください。

指標の確認や分析のポイントは、紹介元と紹介先の両方の指標を見ることです。2つの指標をチェックすることで、どの施策が必要か見えてきます。

たとえば、紹介先の件数が多くても、受注件数や受注率が低い場合は「リードの獲得はできているが、紹介先の関心を十分に引けていない」と判断できます。その場合は、紹介先の関心を引く施策を打つ必要があるでしょう。反対に、1社あたりの紹介先が1社しかない場合は、紹介元へのアプローチを工夫して紹介先を増やすことが求められます。

ただし、ここまで細かく分析している企業は少ないと感じています。

ー多くの企業が細かく振り返りや分析ができていない理由は何だと思いますか?

「評価制度に反映されているかどうか」が大きな要因だと考えています。単に売上を上げるだけでは評価につなげず「なぜ成功したのか?」を説明できて初めて、昇格などの評価対象とすることがポイントだと思います。

一方、受注さえすればよいという評価制度の会社では、振り返りや分析をするモチベーションが低くなりがちです。成功した理由を説明できることが評価につながるという企業文化が、振り返りや分析の促進につながるのではないかと感じます。

施策の実行と改善

ー顧客への施策はどのように実施していましたか?

施策には優先順位をつけ、PDCAサイクルを回していました。施策はメールマガジンの工夫、既存顧客向けの交流会の開催、紹介先となる子会社へのアウトバウンド営業など、多岐にわたる取り組みを行いました。

特に効果が高かったのは、グループ会社(親会社)へのメールマガジンの配信です。従来は「サービスに興味のあるお知り合いのかたがいたらお声がけを」といった内容の文面で実施していましたが鳴かず飛ばずでした。

そこで、メルマガの文面に「サービスに興味のあるグループ会社様がいたらお声がけを」といった内容の文面に変更しました。この変更が功を奏し、紹介リードが増加しました。1~2か月に1件程度の割合でリードが獲得できましたね。

こうして獲得したリードは受注率が非常に高く、ほぼ100%の確率で受注に結びつきました。顧客データの更新には手間はかかりますが、コストパフォーマンスは抜群の施策でした。

ー施策の効果が出るまでにはどのくらいの期間を要したのでしょうか?

半年から1年ほどかかりました。

アップセルやクロスセルは目の前の顧客に意思決定権があるため、提案からすぐに追加受注につながるケースが多いのです。紹介の場合は、意思決定権が紹介先の企業にあるためタイムラグが発生します。しかし、一度紹介先から連絡があれば、受注できることがほとんどです。

ただ、紹介はすぐに成果が出ないことから「即効性がない」と諦めてしまうケースを目にします。

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カスタマーセールスの導入が向いている企業の特徴は?

ーどのような企業にカスタマーセールスの導入が向いていると思いますか?

カスタマーセールスの導入が向いているのは、新規受注の獲得や、既存顧客の運用定着が軌道に乗り、売上増加に向けた次の一手を打ちたいと考えている企業です。具体的には、既存顧客数が500社を超えるようになってきたころが、カスタマーセールスを検討してみるのに適したタイミングだと思います。

一方で、オンボーディングの体制が整っておらず、サービスの運用が定着していないお客さまにカスタマーセールスを働きかけても効果は期待できません。新規顧客の獲得や、既存顧客のサービス運用定着に注力すべき段階と言えます。

カスタマーセールスを成功させるためのポイント

ーカスタマーセールスの立ち上げを成功させるためのポイントを教えてください。

立ち上げを成功させるために重要なポイントは次の2つです。

  • ターゲットの属性の調査とラベリング
  • 既存顧客の運用定着を最優先にする

ターゲットの属性の調査とラベリング

私が行ったカスタマーセールスの立ち上げでは、営業のアプローチ先に優先順位をつけるため、徹底的に企業の属性を調べ上げたことが、成果につながった大きな要因だと考えています。カスタマーセールスチームの立ち上げ当初、ターゲット企業は500社ほどでしたが、調査を進める中で最終的には1,500社まで拡大しました。

少しづつ対象顧客を広げ、過去の紹介履歴やグループ数などの情報を調査し、アプローチを行ったのです。

そのため、ターゲットの属性の調査とラベリングはカスタマーセールスで成果を上げるために重要だと感じております。

既存顧客の運用定着を最優先にする

カスタマーセールスを行う前に、既存顧客の運用定着を最優先にすることも欠かせません。顧客が自社のサービスに対して「導入してよかった、効果があった」と実感できなければ、カスタマーセールスでいくら営業をかけても、アップセルや紹介につながることは期待できないからです。

新規営業であれば受注で一区切りつきますが、カスタマーセールスは違います。既存顧客との長期的な関係構築を大切にし、常に顧客の運用定着を最優先に考える必要があります。私自身、この点を強く意識してきましたし、メンバーにも徹底して伝えてきました。

カスタマーセールスの注意点

ーカスタマーセールスを実施するにあたり、注意点を教えてください。

カスタマーセールスにおいて、顧客とのやり取りで注意していた点は次の2つです。

  • コンプライアンス違反を避けた営業トーク
  • 顧客の「御用聞き」だけにならない

コンプライアンス違反を避けた営業トーク

ー営業トークで気をつけるべき点は何でしょうか?

営業トークにおいては、コンプライアンス違反のリスクに十分注意を払う必要があります。特に、親会社と子会社といったグループ会社関係で情報を扱う際は注意が必要です。

たとえば、親会社に対して「〇〇会社(子会社)さんも自社のサービスを使っているから」と具体的に名指しで話すと、親会社から「その情報をどこで入手したのか?」と疑念を抱かれ、コンプライアンス違反と捉えられる可能性があります。

そのため、顧客とのやり取りでは「御社のグループ会社の経費精算はどのようにされていますか?」など、相手から情報を引き出す形にすることが重要です。公開されていない情報をこちらから押し付けるのではなく、相手に話してもらうことで、コンプライアンス違反のリスクを避けられます。

顧客の「御用聞き」だけにならない

カスタマーセールスでは、既存顧客の「御用聞き」だけにならないことも重要です。

私の場合、当時サービスの運用定着後の専任担当はいなかったため、カスタマーセールスチームでアポを取ること自体は容易でした。顧客から個別対応に感謝されることも多かったのですが、アップセルや紹介にはなかなかつながらず、時間や工数もかかることが課題でした。

また、顧客に感謝されることで承認欲求が満たされ、満足してしまうメンバーもいましたが、カスタマーセールスの最終目標は「紹介先の受注につなげること」です。そのため、単に顧客の要望に応えるだけではなく、常に優先順位を意識して対応することを心がけました。

顧客の満足感にとどまらず、売上につながる行動を続けることがカスタマーセールスの成功のために欠かせないポイントです。

カスタマーセールスで売上拡大を目指す企業を支援します

ーでは、最後にカスタマーセールスの導入を検討される方にメッセージをお願いします。

今回は、グループ会社に特化したカスタマーセールスの営業手法についてお話ししましたが、既存顧客の属性によって、注力すべき施策は異なります。アップセルやクロスセル、紹介営業など、それぞれの企業に適した手法があるはずです。

カスタマーセールスの考え方や仕組みを多くのBtoB SaaS企業に取り入れていただき、売上拡大が実現できる企業が増えれば、世の中がハッピーになっていくと信じています。

「既存顧客から売上を上げることは可能なのか?」と悩んでいる企業は多いと感じています。そのような悩みを抱えたままでいるのはもったいないので、もしお困りのことがあれば支援しますので、ぜひ気軽にご相談ください。

本記事のまとめ

  • カスタマーセールスとは、既存顧客に対する営業活動で、アップセル、クロスセル、紹介営業を通じて売上拡大を目指す組織
  • カスタマーセールスの立ち上げでは、カスタマーサクセスとの役割調整、専用データベースの作成、目標指標の設定、施策の実行と改善が重要
  • 新規受注の成長や既存顧客の運用定着が進んでいる企業において、カスタマーセールスの導入が有効
  • カスタマーセールスの成功のカギは、「ターゲットの属性の調査とラベリング」と「既存顧客の運用定着」
  • 顧客とのやり取りではコンプライアンス違反を避け、「御用聞き」だけで終わらないよう注意

(取材・編集/ 上野さおり)

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