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営業組織

セールス組織構築のポイント〜キーエンス・Sansan・スタートアップの経験者に聞く〜

著者名 TimeSkip

BtoBの営業において、KPIの設計や教育体系の構築は企業の事業フェーズや販売商品によっても様々です。一定の方法論は出回っているものの、多くの企業が自社に合った最適なスタイルはどうしたらよいのか、と悩まれています。


THE MODEL的な分業モデルを導入することが目的化し「とりあえず分業モデルが回っていればいい」という状況に陥っているケースも少なくありません。目標や得たい顧客の特徴、事業フェーズにあわせ定期的な分析と改善を実施することで、事業成長につながります。


そこで今回は、キーエンスから上場SaaS企業、スタートアップ企業を渡り歩いたキャリアをもつ野村さんに営業組織の違いや改善のポイントについて話をうかがいました。

DIGGLE株式会社
VP of sales

野村 幸裕さん

ご自身のキャリアを教えてください

私のキャリアは、2008年に株式会社キーエンスのセンサ事業部という売上や人員の最も規模の大きい事業部に入ったところから始まります。こちらで9年間、法人営業を行っていました。

主に関西地域での工場の新規ライン構築の際に測定器やセンサを販売し、大手電気機器メーカーやモビリティ関連の企業と取引していました。この経験を通じて、エンタープライズ向けの営業スキルを身につけました。

その後、独立を目指してフリーランスとして製造業向けのWEBマーケティング支援を始めました。キーエンス時代の顧客から紹介された案件に対して、サイト作成やWEB広告支援を行いました。この期間を通じて、営業だけでなくマーケティングのスキルも磨きました。

その中で、もう少し体系的にITやSaaSについて学びたいと思い、Sansan株式会社の営業部に入社しました。上場直後のタイミングで組織が成長し業務が細分化されていくフェーズであり、この環境で働くことで新たな視点やスキルを身につけました。

その後、自分で「事業を創る」という経験を積むために、社員一人目としてSALESCORE株式会社(以下:SALESCORE)に参画しました。営業組織コンサルティング事業の立ち上げ、二つのセールステックサービスの立ち上げ、営業・マーケ・カスタマーサクセス(CS)といったレベニュー側の統括に携わりました。

そして2023年4月より、現職のDIGGLE株式会社でVP of Salesとしてフィールドセールス、インサイドセールス、パートナーセールスなど全体を統括しています。

営業組織の違いで重要視されていたことに変化はありましたか。

外出報告書に分単位での行動履歴を記録

キーエンスからSansanに移った際の変化が最も大きかったです。営業の本質的なスキルは同じですが、業界の違いやSaaS事業は特有の「The Model」の理解の必要があります。

キーエンスではテリトリー営業として、取引企業内で新しい部署や担当者を見つけることが重視されました、SaaS企業であるSansanは新規取引が多く、マーケティング、セールス、CSの分業体制と部門間連携が重要でした。

特に分業体制においてKPIの観点では、マーケとセールス、インサイドセールスとフィールドセールス、フィールドセールスとCSなどが衝突することがあります。この営業プロセスの仕組みを学び、組織としてうまく機能させるというのは、面白さでもあり難しさでもあると思います。

キーエンスでは、求められる基準が高く、中でも大きく2つの観点で力がつきました。

1つ目は行動量です。とにかく訪問や電話の数で、顧客との接点を多く持ちます。競合が1日3社訪問するところを、10社訪問するといった行動量で実施していました。

もう1つは、当時まだ取り組んでいる組織は少なかったと思いますが、データドリブンで営業の成果を上げていくという点です。たとえば、外出報告書に何時何分にこれを実施したという分単位での行動履歴、提案内容と反応を細かに面談の記録に残します。データをセグメントごとに分析し、より成果を上げるための戦略を立てるというところまでを求められていました。

電話などは、全員分の電話を聞けるようになっており本部で分析を行っていましたね。

関連記事:SaaSのあるべき営業組織の体制とは?分業のメリットや注意点も含めて解説


営業組織拡大を前提に、仕組化を進める際に取り組むと良いことはなんですか?

前提として、文化と運用する仕組みが必要

組織拡大をする中でツールは必要となってくることが多いですが、ツールをただ入れただけではうまくいきません。前提として「文化」と「運用する仕組み」が必要です。

極端な話、EXCELでも要件定義と運用ができていれば出来なくはないですが、より効率化するためにツールが必要となります。

ツールを使う際には、要件定義をしっかり行い、データを貯めていく仕組みを固めてから進めることをお勧めします。

その上で、まずは営業のベースとなるSFA、CRMを使って顧客情報、接点情報をしっかり貯めてデータ化していくことが最初のステップとなります。

SFAにデータを入れると、各KPIの進捗が可視化できるはずです。受注数だけでなく、インサイドセールスが架電した数や、初回面談数からの様々なデータを確認する中で、どこが目標と乖離しているかを確認することができるようになります。

可視化されるとアクションが変わっていきます。

また各KPIの進捗だけではなく、成果の分析も重要で、受注・失注分析も同時に進められるとよいです。たとえばですが、SFAの受注・失注理由を価格ネック、機能、競合など7-10程度の項目にカテゴライズして選択式にするといった要件を定義し、後に様々な観点で分析できるようにします。さらに「競合」のどこに負けたのか、機能、サポート、提案、価格など、細分化して分析すべき項目があれば定義していきます。

テキストだけでは、分析がしにくくなるためです。このように進めると、定量化できますので、有効だろう施策の検討ができます。ある機能の不足であれば開発の優先度を上げるとか、どことアライアンスを組んで提案するべきかという風に手段が検討に上がってきます。

キーエンスでは、「ニーズカード」という仕組みで管理しており、このくらいの機能があればこの企業数に売れるという議題が月に一回はありました。

また分析対象となる案件は一定の検討フェーズまで進んだいわゆる※SQLに絞り、月に一回受注振り返り会、失注振り返り会の実施をお勧めします。

※SQL(Sales Qualified Lead):​​営業活動によって作られたリード(見込み顧客)。自社サービスに対するニーズが顕在化しており、直近での導入予定があったり、直近ではなくても明確な導入時期が決まっているなど、顧客の中での購買意欲が明確になっていることが特徴

関連記事:営業組織における属人化とは?属人化解消のメリットや業務を標準化をした事例を紹介

マーケティング部門とのぶつかり合いはどの様に回避されましたか?

少し先のKPIを持たせるのも有効な打ち手

よくあるテーマかと思いますが、マーケティング部門はリード供給しているのになんでセールスはなんで売れないの?追客してくれないないの?となり、セールスは、売れるリードをもっとください。となるため衝突がおきます。

解決策は、両方を見る責任者をおいたり、共通のKPIを持たせるなどの手段があります。セールスとCSもそうですが、「少し先のKPI」を各部門に持たせるのも有効です。

たとえば、マーケにアポ獲得率やセールスにCSのオンボーディング完了率をウォッチさせるのもひとつの方法です。

SFAやCRMの導入と運用において、気を付けるべきポイントがあれば教えてください。

トップマネジメントでデータを入れることを徹底させてるかどうかで差が出る

分析や振り返りできるような要件定義ついては、変化していく前提で随時カスタマイズをしていった方が良いです。

世の中の変化に応じて失注理由などは変わり得ますし、提供するサービスの内容や価格が変化することもあります。定期的にフローや項目を見直すミーティングを、運用に関わる主要メンバーで月一回ないし、四半期に一回は行えるといいですね。不要になった項目や、非効率な部分など、見直せる部分が出てくるはずです。

また、データを蓄積できる仕組みを作るという点についてですが、SFAやCRMが根付くかどうかは、トップマネジメントでデータを入れることを徹底させるかどうかで差が出ることが多いと感じています。

入力状況をダッシュボードで可視化し、抜け漏れのチェックを行う担当者を決め、組織内で抜け漏れを指摘しあったり、一部評価にも繋げるくらい徹底的に行って入力をきちんとできている組織は強いですね。

そして、データを入れて終わりにしないためには、振り返り会を通して、施策・ネクストアクションを出すといったところまでを行う場を設けることもとても大事です。これらを実施するためには、土台となるカルチャーの醸成が大切です。

営業組織のパフォーマンスの向上に重要となる取り組みは?

商談の前後にレビューを実施が基本

私がマネジメントする場合は定量、定性の両方を大事にしています。

定量面は、各KPIの比較になりますがメンバーによって受注率などに明確な差が出ることも少なくありません。

「リードソース(流入経路)」や「担当している業界」が違うなど条件が違うと単純比較ができないので、できるだけそういった要素も加味し比較することが大切です。

定性面は、「同席」や「録画の確認」をすることで、メンバーの特徴や傾向について、改善の余地がある点をフィードバックしています。また、基本的なことですが、商談の前後にレビューを行います。

経験、知識が足りないうちは仮説の精度が低かったり、事前に提案内容が準備できていないというケースも多いので、有効です。ここはマネージャーの腕の見せ所ですね。

事前準備したことを全て使うわけではないですが、準備の差がここぞという時に刺さる確率を上げます。キーエンスではここを徹底し必ず商談のレビューを実施していました。

そのほか、オンボーディング期間中にロールプレイングを行ったり、営業のテストでスコアを満たしているかを確認するトレーニングを行い、オンボーディングの完了を明確に定義していました。

テストはオープニング、ヒアリング、デモや提案内容、クロージングできちんと合意がとれているか。といった流れの上で確認するポイントを設けていました。キーエンスでは、初期のオンボーディングに3ヶ月の合宿がありましたね。


目標を達成するためのKPIはどのように設定したらよいでしょうか?

何が受注に相関するKPIかは詳細な受注、失注分析から示唆を得る

KPIはマーケもセールスも、顧客が検討するプロセスに合わせて設計するのが基本だと思います。MQL※の数、初回面談の数、以降の各フェーズの数、受注数などフローに沿ってKPIを置いていくイメージです。これをプロセスKPIと呼んだりしますが、プロセスKPIに相関している重要な要素もKPIになることがあります。

※MQL(Marketing Qualified Lead):マーケティング活動によって創出されたリード(見込み顧客)のこと。ホットリードなどと呼ぶ場合もあります。


フェーズごとの受注率、競合勝率や顧客の上長(部長以上)同席率もその一つです。何が受注に相関するKPIかは、業界や担当者の部署、役職など顧客・案件に関する詳細データを入れることで、詳細な受注・失注分析ができ、示唆を得ることができます。

受注率の高い状況を意図的に作る施策をすることも非常に有効だと考えます。

たとえば、上長同席率が高い方が受注率が高いのであれば、上長同席を促すアクションを早い段階で組み込む、特定業種の受注率が高いとなれば、特定業種の初回面談の数を増やすなどです。

注意点としては、受注と相関はしているけど要因ではない場合もありますので見極めが必要となる点です。

分析においては「メンバー✖️顧客の部署」や「メンバー✖️業種」の切り口で分析するなどし案件の振り方やKPI数値を見直していくのもポイントとなります。

関連記事:フィールドセールスの成果を上げるKPI設定とは?

これから営業組織を作られる方にメッセージはありますか。

営業が5名で月20件商談するのであれば月間100件の商談になりますので、分析を開始すべきだと考えています。3~5名くらいになってきた段階で是非、KPI設計を始め戦略的に成果を出せる組織を目指していただければと思います。

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