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戦略

売り切り型とサブスク型(SaaS)ビジネスの違いは?成功例・失敗例交えて解説

著者名 TimeSkip

近年は、従来の売り切り型の製品からサブスク型へ転換する企業も増えてきました。サブスクリプション型のSaas事業を新たに担当する方にとっては、何から始めれば良いのか迷うところです。では、売り切り型ビジネスとサブスク型ビジネスに違いはあるのでしょうか。

売り切り型とサブスク型のビジネスモデルには、それぞれの特徴があります。それぞれのメリットを理解できれば、新規事業の取り組みに迷うことはないでしょう。

今回は、売り切り型とサブスク型ビジネスの違いについて解説します。サブスク型ビジネスモデルへ転換する際のポイントや注意点など、事例を交えて説明するので理解が深まるでしょう。記事を読み終えたころには、迷うことなくサブスク型への転換を始めることが可能です。

売り切り型ビジネスと比較したサブスクビジネス(SaaS)のメリット

収益が安定する

従来の売り切り型ビジネスは、収益が安定化しにくい特徴を持っています。買い切りという性質上、継続性のない点が季節や年ごとの売上の変動を大きくするからです。サブスク型の場合は、月額の継続課金という形態を取ることが多くなるため、売上予測や収益の安定化を実現することが可能です。

常に最新のサービスを提供できる

売り切り型のソフトウエアはダウンロードを必要とします。この場合、バージョンアップがある都度アップデートしなければなりません。そのため、アップデートの費用や更新時間などが発生します。

クラウド型のSaaSであれば、アップデート費用や手間などが掛かりません。必要な際は、自動で最新の機能が更新されるため、ソフトウエアを利用する顧客の負担を軽減できます。SaaSの場合は、クラウド上でのサービス提供となるため、基本的に顧客側の開発費用やリリース費用が発生しないサービスです。そのうえ、顧客側のセキュリティも定期的に強化できる点が訴求ポイントになります。

顧客の利用データを取得・分析できる

ダウンロード型のソフトウエアは、顧客の利用データをリアルタイムに取得できません。

一方、クラウド型のSaaSであれば、顧客の利用データを取得・分析ができます。その理由は、自社で提供するクラウドサーバーに顧客がログインしてサービスを利用する仕組みだからです。

顧客のリアルタイムな利用状況を取得・分析できることで、必要なタイミングで次のアクションを実行することが可能になります。

  • 現在困っている顧客への利用方法のサポート
  • アップセルやクロスセルの提案

リアルタイムな顧客データは、顧客心理を察知して、適切なサポート・提案をする機会創出につながるでしょう。

売り切り型からサブスクビジネスに転換した成功例

それでは、実際にどのような方法で売り切り型からサブスクビジネスへ転換できるのか、成功例を参考にしてみましょう。

Adobe Creative Cloud (Adobe)

売り切り型からサブスク型へ転換したサービスの中では、代名詞的な存在となるのがAdobe Creative Cloudです。Adobe Creative Cloudは、アドビシステムズ株式会社(Adobe)が開発したウェブデザインや動画編集などのソフトウエア群を統合したサブスクリプションサービスです。

背景と成果

Adobe Creative Cloudは、2012年にいちはやくサブスクリプションビジネスに転換しました。転換前は、売り切り型のパッケージソフトウエアを50万円程度で提供していました。ビジネスモデル転換により、Adobe Creative Cloudは売り切り型ソフトウェアと同じ機能のまま、月額5,000円でサービス提供を始めました。

Adobe Creative Cloudをはじめとしたサブスク型のサービスは、同社の売上を先導しています。実績として、2013年以降右肩上がりで売上が成長し、2020年度では通年の収益が過去最高となる128億7,000万ドルに達しました。コロナ渦においても前年比15%増という高い成長率を達成しています。

成功要因

Adobe Creative Cloudの成功要因の1つは、利用できるソフトウエアのプランを細分化し、広い顧客ニーズの取り込みに成功したことです。当初は、すべての機能が網羅されたひとつのプランのみの提供でした。そのため、ターゲットもプロユーザーに集中していました。

そのような状況から、特定の機能だけを使用したいというライトユーザーのニーズにも応えるため、単体プランや写真の編集に特化した「フォトプラン」など、プランの細分化を手掛けています。その結果、さまざまな顧客ニーズに網羅できるサービスへと拡大しています。

もう1つの成功要因は、営業/マーケティングのプロセス・オペレーションを変革したことです。同社は、Adobe Creative Cloudをサブスク型で提供するにあたり、DDOM(Data Driven Operating Model)というフレームワークを導入しています。DDOMの導入では、カスタマージャーニーを5つのステップに分けています。

  • Discover(Creative Cloudを知る)
  • Try(体験版を使う)
  • Buy(サブスクリプション契約を開始)
  • Use(ツールを使う)
  • Renew(サブスクリプションを更新する)

これらの各ステップにおけるデータに基づき、営業・マーケティングのオペレーションを実行しました。さらに同社は、膨大なデータを処理する目的で専用のデータサイエンティストチームも新設しています。

チーム新設により、Webトラフィックから広告パフォーマンスまで、さまざまなデータをスピーディーに処理できるようになりました。チームメンバー全員が同じデータから判断し、顧客に対して的確な「製品を使うヒント」の提供を実現しています。結果として顧客満足度も向上している状況です。

Office365(Microsoft)

Office365は、マイクロソフト社(Microsoft)が提供するWindowsユーザーを中心に利用されるMicrosoft Office製品(Word、Excel、Power Pointなど)のサブスクリプションサービスです。

背景と成果

2013年にOffice365はリリースされました。これまで売り切り(ダウンロード型)で提供していたOffice製品をクラウド経由で提供し、サブスクリプション型の課金方式へと転換しています。

マイクロソフト社CEO(最高経営責任者)のAmy Hood氏による非公式の発言では、2020年度のOffice365を含むMicrosoft 365(Windows、Enterprise Mobility + Securityなど)の売上高は200億ドルになったと言われています。2019年度の売上高は132億ドルだったため、増収率が50%以上という結果です。

引用:ZDNET「『Microsoft 365』が2020年度に急成長–CFOが非公式に明かす

また、Office365の会員数は、提供開始から3年で1000万ユーザーを超えています。2020年6月時点で4000万ユーザーを超えていることから、右肩上がりの成長を実現していることが分かります。

引用:Live Computing Inc.「Microsoft Office 365 Consumer 会員数の推移」

成功要因

Office365の成功要因は、継続して機能をアップデートしていることで売り切り型との差別化を図っている点です。また、営業の業績指標についてもサブスク型への転換と同時に変更しています。

Office365は、Office機能のアップデートを継続して、Office365ユーザーに最新バージョンを常時提供しています。この姿勢がサブスクユーザーに継続的な価値を与える要素となるでしょう。

また、Office365のサブスク版をリリースした後も、従来のダウンロード版(売り切り型)の提供も続けています。

売り切り型との差別化ができる要素は、サブスク版ユーザーだけが利用できるオンラインストレージや追加機能の提供です。この機能は、売り切り型のOfficeでは利用できません。また、初月無料のお試しプランや目的を絞った複数のプラン提供など、プランの柔軟性も高くなっています。

Office365は、サブスクリプション方式への転換に伴い、営業のKPIを改革しています。これまでは営業の評価指標を「ライセンスの販売本数」で計測していました。サブスク版の提供を機に、「マイクロソフトのクラウドサービスをどれだけ使ってもらったか」というコンサンプション(消費量)に変更しています。

コンサンプションをKPIに変更することで、営業は販売して終わりではなく、顧客にサービスを使い続けてもらうように働きかけるでしょう。こうすることで、顧客満足度が向上するとともにサービスの更新率も上がります。結果的に、解約率の低減につながるでしょう。

サブスクビジネス転換の失敗例

サブスクビジネスは、注目を集めている一方、売り切り型からの転換で失敗するケースもあります。現在、売り切り型からの転換を検討中の方は、成功例だけではなく失敗例についても把握しておきましょう。

suitsbox (AOKIホールディングス)

 AOKIホールディングスが提供したスーツのサブスクサービス「suitsbox」は、どんな背景から誕生したのでしょうか。失敗要因もふまえて解説します。

背景

suitsboxは、”スーツ離れ”が進む20-30代の若者世代をターゲットに、2018年にリリースしたスーツのサブスクリプション。内容は、プロのコーディネーターが選んだスーツが毎月1セット送られてくるサービスです。ところが、サービスリリースからわずか半年後の2018年12月に「中期的な黒字化が見込めない」という判断でサービスを終了しています。

失敗要因

suitsboxの失敗要因は、「ターゲティングのずれによる既存事業とのカニバリゼーションの発生」が考えられます。実際にサブスクサービスを申し込んだ属性は、ターゲットに設定した「スーツ離れが進む若者」ではなく、店舗で購入している40代などの中核顧客という結果でした。

まさに、サブスク事業を伸ばすほど、店舗の売上高が減少するという共食い(カニバリゼーション)状態となったわけです。それだけではなく、サービス提供コストがかさみ、採算が取れなくなった点も失敗要因になるでしょう。

顧客のさまざまな要望を満たす方法として、レンタルアイテムの商品構成を広く持たせる必要がありました。そうすると、商品の調達コストが想定より高くなってしまい、物流コストや保管コストも大きくかかり、根本的に利益の出ない構造になっていたと考えられるでしょう。

おまかせ定期便(ZOZO)

衣類の通販サイト大手の「ZOZOTOWN」は、サブスクサービス「おまかせ定期便」を提供しましたが、提供開始した翌年にサービスを修了しています。その背景と失敗要因について解説します。

背景

お任せ定期便は、サイズや服の好みなどのアンケートに答えると、ZOZOTOWNで取り扱う50万点以上のアイテムからアンケート結果を参考に選ばれた商品が送られるという2018年に開始したサブスクサービスです。サービス利用者は、1〜3カ月ごとに服や靴など5〜10点の商品が届き、好みにあった商品のみを購入できます。サービス利用にかかる費用は、購入した商品の代金と送料200円のみで、不要なアイテムは、無料で返送できるサービス内容でした。おまかせ定期便は、2019年3月にサービスを終了しています。

失敗要因

おまかせ定期便がサービスを終了した理由は、既存会員の購入率が低かったことです。つまり、既存会員のニーズに合っていなかったことが考えられます。新規ユーザーには、次のような価値をもたらしました。

  • 「服を選ぶのが面倒なので助かる」
  • 「自分では選ばないものを選んでくれて幅が広がった」

このように普段ZOZOを利用していない新規ユーザーにとっては、好評となって送付された商品の購入率も高くなりました。一方で、普段からZOZOで買い物をしていた既存顧客の場合は、「自分で服を選びたい」というニーズが強いため、本サービスでの購入率は低下しました。

結果的に、配送コストが見合わなくなり利益も出なくなったことからサービスを終了しています。こちらの例もターゲット設定のずれ・顧客ニーズの読み違いが生じたことが失敗要因と考えられます。

サブスクビジネス転換のポイント・注意点

売り切り型からサブスクビジネスに転換する際は、どのようなポイントや注意点があるのでしょうか。実際にビジネスモデルを転換する際のヒントにもなりますので、解説していきます。

既存ビジネス(売り切り型)・既存顧客との関係性を定義する

売り切り型からサブスク型へビジネスモデルを転換する際は、事前に既存顧客との関係性を定義しておかなければなりません。特に気を付けるべきなのは、サブスクビジネスに完全転換するのではなく、既存の売り切り型と併存する場合です。今回の事例で紹介したAdobe Creative Cloud以外は、既存の売り切り型と併存しています。

Microsoft Officeは、売り切り型とサブスクリプション型を併用したが、既存顧客との関係性について正しく定義できていたために成功できたと考えられます。1回払いで使いたい顧客に対しては、売り切り型ライセンスを選んでもらう一方で、サブスク版だけで使える機能を提供しています。プランを充実させることで、売り切り型ライセンスとの差別化を実現したことで顧客ニーズの取り込みに成功しました。

一方、失敗例で紹介したAOKIの場合は、サブスクのターゲティングを読み誤ったことが失敗要因となっています。収益の柱である既存店舗に来店する顧客が想定外に流れてしまい、サービス停止まで追い込まれました。ZOZOTOWNのケースも同じで、既存の顧客ニーズを読み違えています。

サービスローンチ前の計画段階で、既存ビジネスとサブスクビジネスの違いや顧客ニーズの違いを理解・定義することが重要です。ターゲットの見誤りが戦略立案において生じることは仕方ありません。失敗例を通してその状況に耐えうる企業内部での理解・予算を確保しておく体制が大切です。

もし、ターゲットの読み間違いが許されない場合は、テストマーケティングを通じて、取り返しがつかない状況を避ける事業開発方針が必要です。取り返しがつかない状況を避けるために、失敗を管理できる体制を構築しましょう。

自社サービスのコスト構造を理解してサービス設計(プライシング)する

失敗例で紹介したAOKIやZOZOの例から見えてくることは、自社のサブスクサービスのコスト構造を正しく理解できていない点です。コスト構造を理解しないでサービス設計を進めてしまうと、想定外のコストが掛かり利益の出ないモデルになってしまいます。

そのため、コスト構造を正しく定義するとともに、コストに見合う価格設定(プライシング)でサービス設計を進めることが大切です。

SaaSのコスト構造や売上原価/販管費率の目安・改善方法については、以下記事もご参照ください。

SaaSビジネスのコスト構造ってどう考える?原価率・販管費率の改善方法も含めて解説

SaaSの価格体系の種類やプライシングの手順については、以下記事もご参照ください

SaaSのプライシング(価格設定)戦略とは?料金体系や手順について詳しく解説

営業・マーケティングプロセスの流れを定義して、KPIを設計し直す

Adobeの事例のように、自社サービスに合ったサブスクビジネスの営業・マーケティングのプロセス(リード獲得→リード育成→商談→契約→カスタマーサクセスなど)を定義することも重要です。既存の売り切り型と同じプロセスで営業を続けてしまうと、効率の悪い営業活動になってしまい、無駄な営業リソースがかかってしまったり、売上の拡大が限定的になるでしょう。

また、Office365の事例のように、売り切り型からサブスク型へ転換する際は営業・マーケティングのKPIを刷新する必要があります。KPIを設計するときは、営業に対して、販売数・契約数を増やす動機付けだけでは不十分です。顧客に継続して長く使ってもらうように促すようなKPI(継続率や消費額など)を定義しましょう。そして、定義したKPIは、データでトラッキングできるようにすることで、関係者全員で共通認識が生まれます。

SaaS立ち上げのポイント・費用やプロレス・事例については、以下記事にもまとめているため、ぜひご確認ください。

SaaS立ち上げのポイント・開発費用や立ち上げプロセスとは?事例を交えながら解説

まとめ

売り切り型ビジネスからサブスク型へ転換することは、商品やサービス内容だけではなく、ターゲットとなる顧客についても見直さなければなりません。今回紹介した成功例や失敗例、ビジネスモデルの転換ポイントや注意点をヒントにして取り組んでみてください。

サブスク型に転換するためには、既存ビジネスとの関係性や収益構造、組織、KPIなどさまざまな要素の検討が必要

サブスク型に転換する場合は、既存ビジネスとの関係性や収益構造、組織、KPIなどさまざまな見直しが欠かせません。

売り切り型とサブスク型ビジネスは、多くの要素が異なります。ビジネスモデル転換のためには、既存ビジネスとの関係性を定義したうえで、サブスク型の新しいビジネスの収益構造を検討しましょう。利益が出るような構造となるように、プライシング・コストの定義が必要です。また、営業・マーケティング組織を変革して、新たなKPIのもとで状況を見える化しながら推進・改善をする必要があります。

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