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SaaS企業に求められる営業戦略とは?戦略の立て方・ポイント・代理店活用法を含めて解説

著者名 TimeSkip

現在、多くの個人や事業者がSaaS製品を利用しており、その選択肢は増加しています。

SaaSビジネスは、近年急速に成長している分野の一つです。SaaSは、クラウド技術を活用することで、個人や企業に新たなビジネスモデルの構築や、既存ビジネスの効率化につながる、効果的なツールを提供しています。一方で、競争も激しくなっているため、SaaS企業には自社に合った綿密な営業戦略が求められています。

この記事では、SaaS企業に求められる営業戦略を解説します。営業戦略の立て方やポイント、代理店活用法、成功事例まで、SaaS企業に必要な要素をカバーしているため、効果的な営業戦略を立てたい方はぜひ最後までお読みください。

SaaSに適した営業戦略の類型

SaaSビジネスでは、ターゲット顧客や自社サービスに合った営業戦略の構築が成功へのカギの1つです。

SaaSビジネスに合った営業戦略を策定・実行することで、顧客との信頼関係を構築し、売上の拡大に繋げることができます。

SaaSの営業戦略の類型は、大きくわけて2種類存在します。拡大型の営業戦略と、絞り込み型の営業戦略です。

ここでは、SaaSに適した営業戦略の2つの類型について説明します。

拡大型の営業戦略

拡大型の営業戦略は、顧客が大企業(エンタープライズ)の場合に採用されることが多いマーケティング手法です。

エンタープライズ層が顧客の場合、サービス単価が高くなることが多く、スイッチング(切替)や解約もあまり発生しないため、1顧客に狙いを定めて、「特定→拡張→関係構築→他部署展開」というステップで進むのが特徴です。
狙うべき顧客の対象を定めて(特定)、その顧客にアプローチができるような人脈をつくり(拡張)、顧客に対して時間をかけてニーズを分析し提案(関係構築)、契約を獲得したら、顧客企業の中でユーザーを拡大(他部署展開)するような流れになります。

エンタープライズ層の顧客は、獲得には時間がかかりますが、契約まで至ると、顧客のニーズを満たし続ける限り、解約される可能性も低くなります。

拡大型の営業/マーケティング戦略の実行はコストや時間がかかる一方で、売上/利益の拡大余地が大きいため、ハイリスク・ハイリターンとも言えます。。そのため、慎重にターゲティングを行う必要があります。

拡大型の営業/マーケティング戦略を成功させるには、ターゲット顧客に対して、最も反応しやすいチャネルを通じて粘り強くアプローチすることも重要です。

絞り込み型の営業戦略

絞り込み型の営業戦略は、顧客が個人や中小企業の場合に多い手法です。

サービス単価が低く、スイッチングや解約も発生しやすいため、1顧客にフォーカスをせずにできるだけ網を広げて、「認知拡大→顧客の選定→商談→契約」というステップで進むのが特徴です。拡大型のように最初から対象を絞らずに、幅広い認知/リードを獲得してから、重点的に営業をすべき顧客を選定し商談・契約へと進みます。

デジタルマーケティングと相性が良いのは、こちらの絞り込み型の営業戦略です。したがって、SaaSビジネスでは、絞り込み型の営業戦略を採用することが比較的多くなります。

ただし、ターゲットや市場の状況に合わせて適した戦略に変えていくことが大切であり、拡大型を採用するケースもある点に注意しましょう。

例えば、オンライン営業システムを提供するベルフェイスの事例では、ターゲット顧客を中小企業から金融業界のエンタープライズ企業に絞り込んで営業を強化しました。

その結果、競合となるZoomの襲来により危機を迎えながらも、ARR(年間経常収益)を営業戦略の転換前の約5倍である6億円に伸ばしています。

ベルフェイス株式会社 取締役の西山さんの記事がとても参考になります。
金融機関を対象に、2年間でARR6億円をつくった『EP営業の有効施策』を公開

このように、市場環境やサービスの特性などを踏まえて、臨機応変に戦略を変えていくことも必要となります。

SaaSビジネスの営業戦略立案のプロセス

サブスクリプション型のビジネスとなるSaaSは、従来のパッケージ等の売り切り型とはビジネスモデルが異なります。そのためSaaSの販売には、売り切り型ビジネスとは異なる営業戦略が必要です。

ここでは、SaaSビジネスの営業戦略立案のプロセスについて解説します。

市場調査による顧客理解

顧客を理解するために、市場調査によって自社のターゲットとなる顧客を調査します。この際、3C分析が有効です。3C分析とは、市場/顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの要素を整理するフレームワークです。

市場(Customer)分析では、顧客セグメントがどのように構成されているか(顧客の企業規模や業界/業種など)、各セグメントは今後伸びるのか/衰退するのかを分析します。

また、各顧客にアプローチしている競合企業(Competitor)はどこか、顧客はどのようなニーズがあり、そのニーズに対して自社(Company)が提供できる独自の価値(Unique Selling Proposition)は何かなどを明らかにします。

営業プロセス全体の定義・KPIの設定

次に、営業プロセスの全体像を定義します。一般的なプロセスをベースにして、自社にあった営業プロセスの形を定義します。

一般的なSaaSビジネスの営業プロセスは、下記の通りです。

リード獲得→リード育成→商談→受注/契約→アフターサポート(解約の防止)・クロスセル/アップセル

その中で営業部門が担当するのは、リード育成(インサイドセールスが主に担当)、商談(フィールドセールスが主に担当)になります。リード獲得を行うマーケティング部門や、アフターサポートを行うカスタマーサクセス部門とも連携が発生します。

また、リード獲得数、商談化率、受注率、解約率など、それぞれの段階におけるKPIと目標値の定義をします。

各KPIについて、自社に合った呼び方や定義をした上で、改善サイクルを回す体制づくりが重要です。

例えば、「商談」をどう定義するかはSaaS企業によって異なります。

  • 商談=初回アポ
  • 商談=2回目のアポ
  • 商談=デモアポ
  • 商談=見積提示

このように、「商談」に対する考え方はさまざまで、その定義に伴い、インサイドセールス ・フィールドセールスの役割も変わります。

また「商談」をターゲットへのアポイントとし「有効商談」を顧客の課題解決が自社でできる事、半年以内の受注見込みであることなどを見極めて区別するケースもあります。

改善を進めるためには、基準/目標を設定することがとても重要です。

例えば、初回ロスト率(インサイドセールス→フィールドセールスに案件を引き渡して商談化しない確率)は何%にすべきなのか、など建設的な会話ができるようにすべきです。

そしてもし20%と想定したならば、それ以上でも以下でも議論が発生する仕組みを作りましょう。

KPIの目標値を定義する際の目安や改善策は以下の記事を参照してください。

商談化率:「インサイドセールスの商談化率の平均は?低下の要因や改善策についても解説」

受注率:「SaaSビジネスの受注率の平均は?受注率低下の要因や改善策についても解説」

解約率:「SaaS業界におけるチャーンレート(解約率)の平均と目安とは?計算方法や改善策も解説」

顧客層ごとのアプローチ方法の策定

営業プロセスの全体像を定義しても、やみくもに営業活動を実行するだけでは、非効率になり、狙ったような効果を生むのは困難です。

顧客の規模や将来性によって、どの程度リソースをかけるべきか、顧客セグメントごとにわけて対応する必要があります。

・ハイタッチ:大企業などの自社にとって重要となる顧客をターゲットに、営業のリソースを割いて個社ごとに合ったサービスを提案する。対象となる顧客数は少ないが、サービスの更新・継続の見込みが高く、顧客一人が生み出す価値(LTV)は高くなる。

・ロータッチ:中堅規模の顧客をターゲットに、営業のリソースを一部割きつつ、マスアプローチで対応して効率的に契約まで誘導する。対象となる顧客数は比較的多くなるが、サービスの更新・継続の見込みはそれほど高くなく、LTVも中程度となる。

・テックタッチ:個人や小規模の企業などがターゲットに、できるだけWeb上でクロージングまで完結させる。対象となる顧客数は最も多くなるが、サービスの更新・継続の見込みは低くなり、顧客一人当たりの価値(LTV)は最も低い。

テックタッチの顧客セグメントに対しては、営業リソースをかけるのは非効率的です。Web上から無料トライアルの申し込みをしてもらい、サービスを使ってもらって良さを実感頂いててから本契約へのアップグレードに誘導することも有効です。

営業のリソースをできるだけ使わずに、契約まで誘導するプロセスを設計しましょう。

必要営業スキル・ケイパビリティの設定

次に、営業活動に必要なスキルやケイパビリティ(能力)を定義しましょう。

例えば、コミュニケーション能力、ヒアリング能力、課題発見力、交渉力、プレゼンテーション能力などの要件を明確に定義します。

トップセールスがなぜ成果を上げているのかを分析し、成果を上げる営業になるために必要なスキルを定義することが有効です。

トップセールスに依存している状態だと、業績が安定化せず、営業組織が弱くなっていきます。

そのような状況に陥るのを防ぐため、「セールスイネーブルメント」と呼ばれる営業組織の強化・改善を仕組み化する取り組みを進めることも有効です。

「1人前の営業」を定義した上で、新入社員が1人前になるまでにどのようなトレーニングを実施したり、オンボーディングプログラムをこなすべきかを体系化し、プログラムの改善をし続ける体制を作ると良いでしょう。

また、インサイドセールスとフィールドセールスなど、セールスの種類ごとに必要となるスキルを定義することで、より効率的な営業組織を構築できます。

営業組織の属人化解消の詳細や事例については、以下記事を参照してください。

「営業組織における属人化とは?属人化解消のメリットや、業務の標準化をした事例も紹介」

必要ツール・仕組みの定義

営業活動に必要なツール・仕組みを定義・導入をすることで、自社の営業活動を遂行する下地を作ることも有効です。

営業活動を効率的に進めるためには、どのようなデータが必要で、そのデータをツールを用いてどのように入力・記録・分析をするのか、要件定義をして導入を進めましょう。

営業ツールの例としては、全営業担当者が共有して使用できる提案書・メールのテンプレート、コールスクリプトなどがあります。

また、SFA(営業支援ツール)やCRM(顧客関係管理ツール)などのツールを導入することも有効です。

営業ツールを活用することで、営業レベルの底上げを図り、トップセールスに依存しない体制が構築できます。

その結果、営業活動の進捗も可視化されるため、営業マネジメントや営業プロセスの改善がしやすくなります。

サービスの各段階における代理店の活用法

SaaS業界は急成長している注目のビジネスモデルですが、業界が成長すればするほど、競争も激しくなります。そのため、販路拡大のために代理店の導入を検討するSaaS企業も増えています。

ここでは、SaaSサービスの各段階における代理店の活用法を紹介します。

サービスのローンチ当初

サービスのローンチ当初は直販で、自社の営業リソースを使って営業するのがよいでしょう。

初期に代理店を経由させると、以下のようなデメリットがあるからです。

  • 代理店へのマージンが発生するため、安定して利益が出ていない段階ではコスト負担ができずに収益を圧迫する可能性がある
  • 代理店に頼ってしまうと営業フェーズにおける顧客の生の悩みに触れる機会がなくなり、自社セールスの営業スキルが育たない
  • 売り方を確立してからパートナー展開しないと交渉力が弱く、厳しい条件で代理店と契約することになる

また、そもそも、自社が売れない製品は他社にも売ることはできないでしょう。

トップセールス以外の平均的な営業マンでも、再現性高く売れるようになるまでは、自社の人員で営業を行うのがよい選択となります。

なお、これが実現するポイントを、プロダクトマーケットフィット達成といいます。

営業活動のスケール化

SaaSの営業活動をスケールさせるためには、自社の営業リソースだけでは限界があります。また、営業社員を採用し過ぎるのも、人件費(固定費)が増えてしまうので、市場/需要の変化に柔軟に対応できなくなるリスクが高まります。

営業プロセスや、自社サービスに適した営業スキルの育成方法が固まり、ツールの整備ができたら、代理店を活用して営業活動のスケール化を推進しましょう。

代理店活用の方式として、代理店がサービスのライセンスを仕入れて顧客に直接販売する再販方式と、代理店はSaaS事業者に顧客を紹介し、自社の営業が商談・クロージングを行う紹介(リファラル)方式の2つがあります。

代理店活用の詳細やメリット/デメリットは以下の「SaaS企業が代理店販売を導入するメリットは?導入を検討する時の注意点も詳しく解説」を参照してください。

このように代理店を活用していくことで、売上を大きく拡大できる可能性が高まります。

なお、代理店経由の理想的な売上比率は戦略によって異なるため、目指すべき方向性に応じてパートナー戦略を立てていくようにします。

例えば、監視カメラ+SaaSのビジネスで2021年9月に上場したセーフィの代理店経由の売上比率は、60%程度です。

パートナー戦略をたてる場合は、販売手数料やパートナー教育費、パートナー開拓のための営業人件費なども予算化できる体制を作ると、さらに効果的です。

広告宣伝費は予算化できていても、パートナー関連の費用は行き当たりばったりで予算化していない企業も多いものです。営業活動のスケール化は、しっかり計画・予算化することが重要です。

SaaSの営業戦略立案のポイント・注意点

SaaS事業者にとって、営業戦略の策定はビジネスの安定と成長に欠かせません。

ここでは、SaaSの営業戦略立案に必要なポイントや注意点について解説します。社内の関係部署との緊密な連携や適切なKPIに基づいた営業活動を推進することが、SaaSビジネスの成功につながります。

マーケティング部門/カスタマーサクセス部門と衝突しない戦略を立てる

上記で説明した通り、SaaSビジネスの営業プロセスは営業部門だけで完結するわけではありません。

マーケティング部門やカスタマーサクセス部門と緊密に連携したプロセスが重要です。

したがって、戦略策定の段階で、マーケティング/カスタマーサクセス部門も巻き込んでプロセスやKPIを策定するのが効率的です。

営業プロセス全体を通した最適なKPIを定義しないと、マーケティング部門は質を考慮しないリードを大量に取り、営業活動が非効率になるなどの問題が発生します。

マーケティング部門、カスタマーサクセス部門との連携に関しては以下の記事も参照してください。

「BtoBマーケティングのプロセスとは?BtoCとの違いや使えるツール・ポイントなどを解説」

「カスタマーサクセスで直面する課題と解決策は?LTVやヘルススコアの考え方を含めて解説」

プロセス・KPIは実行しながら見直し、改善を続ける

営業やマーケティング活動を実行に移すと、当初考えた通りのプロセスではうまく営業活動が進まなかったり、またKPIの内容や目標値が適切でない場合もあります。

各部門の担当者から集めたフィードバックや、運用後のKPIの数値から問題点を把握し、プロセスやKPI定義をもっと改善できないかつねに意識することが重要です。

まとめ

サブスクリプション型のSaaSビジネスは、高い柔軟性と低い導入コストから需要が高まっています。同時に、SaaSビジネスの競争は高まっており、そのような市場で勝ち残るためには、自社に適した営業戦略の構築が不可欠です。

SaaSビジネスの成功のためには、自社に適した営業戦略を立案・実行することが必要

SaaSビジネスにおいて、マーケティング/カスタマーサクセスなどの他部門と連携し、自社サービスに合った営業戦略を立案・実行することは非常に重要です。

顧客のセグメントやニーズを理解した上で、営業プロセスの全体像を策定し、各プロセスにおけるKPIや目標値の定義、営業活動を実行するためのスキルや仕組みを整えるなど、さまざまな要素を検討する必要があります。

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